【長編版】冷徹弁護士の甘い執着〜八年前の初恋相手に、もう一度捕らわれる〜
そして一定のゆっくりとしたリズムで、山崎の手の甲に圧をかけた。これは『タクティールケア』と呼ばれる不安を和らげるための緩和ケア術だ。暴走している脳の交感神経を強制的に鎮静化させる効果がある。
「山崎さん。私と一緒に深呼吸をしましょうか。吐いてー吸ってー、もう一度吐いてー。大丈夫ですよ。ここは安全ですからね」
麻里は緩和ケアをしながらゆっくりと深呼吸をして見せる。麻里の呼吸に合わせるように、山崎の激しい息づかいが徐々に遅くなっていった。
「上手ですよ、山崎さん。もう落ち着きますからね。大丈夫ですよ」
麻里は辛抱強く何度も同じ動作を繰り返す。
山崎の震える背中を、もう片方の手でゆっくりと、上から下へと一定のテンポでさすってあげる。
気がつくと、外の暴風雨の音は全く気にならなくなっていた。
目の前の山崎の呼吸音だけが耳に入ってくる。まるでそこだけが別の世界のようだった。
「あぁ……はぁ……」
しばらくすると、山崎が長めの息を吐き、指先からすうっと力が抜いた。
白濁していた瞳に、少しずつ光が戻ってきたのが見える。
「佐倉さん……。私はまた、おかしくなってしまったのかね」
「大丈夫ですよ、山崎さん。ちょっと驚いてしまっただけですよ。もう大丈夫ですからね」
麻里は柔らかく微笑みポケットから清潔なハンカチを取り出すと、山崎の目元や額の汗を丁寧に拭き取った。
「お疲れでしょう。ベッドへ行って、横になりましょうか」
「あ、あぁ……すまないね。いつも、迷惑をかけて……」
「とんでもありません。さあ、ゆっくり立ち上がりましょう。私の肩に掴まってくださいね」
麻里は自分の身体で山崎の身体をしっかりと支え、彼の歩幅に完全に合わせてゆっくりと奥の寝室へと向かった。
山崎をベッドに横たえ、毛布をかける。彼が完全に眠りにつくまで小さな声で声をかけ続けた後、麻里はそっと寝室のドアを閉めて居間へと戻った。
福村は座ったままローテーブルの上の書類をじっと見つめていた。
「あの……福村先生。さっきは声を荒げて申し訳ありません。ですが、あのように山崎さんの精神が乱れ始めたら、一度追及は止めていただきたいのです」
麻里が頭を下げてちらりと福村を見ると、彼は麻里をじっと見つめていた。
その真剣な眼差しは、怒りを含んでいるようにも、悲しみを含んでいるようにも見えた。
「……先生?」
動かない彼の前に置かれている冷めきったお茶を片付けようと、麻里が腕を伸ばしたその時。
福村の大きな手が麻里の手首を強く掴んだ。
「ど、どうしましたか?」
驚いて顔を上げると、思ったよりも至近距離に福村の顔があった。先日、『麻里を手に入れる』と宣言されたことを思い出し、心臓がドキリと跳ねる。
目をそらすことも出来ないまま福村を見つめていると、彼はすっと眉を下げた。
「……参ったな」
福村は掠れた声でぽつりと呟いた。麻里の手首を掴む指先が、じわりと力を増していく。
「山崎さん。私と一緒に深呼吸をしましょうか。吐いてー吸ってー、もう一度吐いてー。大丈夫ですよ。ここは安全ですからね」
麻里は緩和ケアをしながらゆっくりと深呼吸をして見せる。麻里の呼吸に合わせるように、山崎の激しい息づかいが徐々に遅くなっていった。
「上手ですよ、山崎さん。もう落ち着きますからね。大丈夫ですよ」
麻里は辛抱強く何度も同じ動作を繰り返す。
山崎の震える背中を、もう片方の手でゆっくりと、上から下へと一定のテンポでさすってあげる。
気がつくと、外の暴風雨の音は全く気にならなくなっていた。
目の前の山崎の呼吸音だけが耳に入ってくる。まるでそこだけが別の世界のようだった。
「あぁ……はぁ……」
しばらくすると、山崎が長めの息を吐き、指先からすうっと力が抜いた。
白濁していた瞳に、少しずつ光が戻ってきたのが見える。
「佐倉さん……。私はまた、おかしくなってしまったのかね」
「大丈夫ですよ、山崎さん。ちょっと驚いてしまっただけですよ。もう大丈夫ですからね」
麻里は柔らかく微笑みポケットから清潔なハンカチを取り出すと、山崎の目元や額の汗を丁寧に拭き取った。
「お疲れでしょう。ベッドへ行って、横になりましょうか」
「あ、あぁ……すまないね。いつも、迷惑をかけて……」
「とんでもありません。さあ、ゆっくり立ち上がりましょう。私の肩に掴まってくださいね」
麻里は自分の身体で山崎の身体をしっかりと支え、彼の歩幅に完全に合わせてゆっくりと奥の寝室へと向かった。
山崎をベッドに横たえ、毛布をかける。彼が完全に眠りにつくまで小さな声で声をかけ続けた後、麻里はそっと寝室のドアを閉めて居間へと戻った。
福村は座ったままローテーブルの上の書類をじっと見つめていた。
「あの……福村先生。さっきは声を荒げて申し訳ありません。ですが、あのように山崎さんの精神が乱れ始めたら、一度追及は止めていただきたいのです」
麻里が頭を下げてちらりと福村を見ると、彼は麻里をじっと見つめていた。
その真剣な眼差しは、怒りを含んでいるようにも、悲しみを含んでいるようにも見えた。
「……先生?」
動かない彼の前に置かれている冷めきったお茶を片付けようと、麻里が腕を伸ばしたその時。
福村の大きな手が麻里の手首を強く掴んだ。
「ど、どうしましたか?」
驚いて顔を上げると、思ったよりも至近距離に福村の顔があった。先日、『麻里を手に入れる』と宣言されたことを思い出し、心臓がドキリと跳ねる。
目をそらすことも出来ないまま福村を見つめていると、彼はすっと眉を下げた。
「……参ったな」
福村は掠れた声でぽつりと呟いた。麻里の手首を掴む指先が、じわりと力を増していく。