【長編版】冷徹弁護士の甘い執着〜八年前の初恋相手に、もう一度捕らわれる〜
「すまない、麻里」
「え……?」
「俺は弁護士として、ミツルギ重工の代理人として、この事件に正しく関与しているつもりだった。だが、違ったな。山崎さんは俺のせいで……麻里が彼を守ってくれなかったら、俺は彼の人権を踏みにじってしまうところだった。弁護士職務基本規定一条に反する。弁護士失格だ」
「そこまでは……福村先生はきちんと山崎さんの人権を尊重されていましたし」

 麻里がそう言ったが、福村は首を小さく横に振り、深く頭を下げた。

「申し訳ない。山崎さんの尊厳を傷つけ、麻里の仕事を邪魔したことを心から謝罪する」

 麻里は目の前の出来事が信じられなかった。
 あの福村正樹が自分の非を全面的に認め、真摯に頭を下げている。
 その姿に、麻里の胸は激しく揺さぶられた。

(先輩は八年前よりも、弁護士としての深みが増している。あの頃とは違うんだ……)

 福村に対する尊敬に混ざって、取り残されたような情けない気持ちが沸き上がる。

「私や山崎さんを尊重してくださり、ありがとうございます。……福村先生は、良い弁護士ですね」

 麻里は自嘲気味に微笑む。
 すると福村はつかんでいた麻里の手をぐっと引き寄せた。その距離は、お互いの息遣いが触れ合うほどに近い。

「今の俺は『良い弁護士』なんかじゃない。今の麻里の介護士としての強さの、足元にも及ばない」
「買い被りすぎです。私は……山崎さんよりもこの事件が気になってしまう、駄目な介護士なんです」

 麻里が自虐的に吐き捨てると、福村はふっと表情を和らげた。

「それは俺が解決してみせる。そのためにここにいる。……そのためにミツルギ重工の代理人になったのだから」
「え?」

 麻里が首を傾げた瞬間、唇に柔らかいものが一瞬だけ触れた。
 目を丸くして福村を見ると、彼は満足そうに口角を上げている。

「ふ、福村先生!?」
「その呼び方は止めてくれと、前に言ったが?」
「福村先輩っ!」

 麻里が昔の呼び名で呼ぶと、彼はパッと手を離した。

「さて、まずはこの事件の真実を暴くとしよう。麻里、君の力が必要だ」
「え?」

 麻里はまだドキドキと音を立てている心臓をおさえながら首を傾げる。

「ミツルギ重工が真に求めているのは山崎さん賠償ではない。真にミツルギを追い込んだ者への制裁だ。それを追求するためには、山崎さんの証言や証拠が必要不可欠。……協力してくれるか?」
「私なんかが、役に立てますか?」
「当たり前だろう。俺が見込んだのだから」

 福村の言葉は、まるで麻里を対等な相棒として認めいるような口ぶりだ。

(私の仕事が山崎さんの免罪を晴らし、福村先輩の役にも立つ。かもしれない……)

 麻里は自分から福村の手を掴む。

「私、やります」

 その時、麻里はバッグの中で眠っている真鍮の鍵を思い出していた。
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