【長編版】冷徹弁護士の甘い執着〜八年前の初恋相手に、もう一度捕らわれる〜
 その日の夜、麻里は自室のベッドに転がりながらスマホを眺めていた。
 スマホの画面には『福村正樹』という文字が映っている。

(連絡先、交換しちゃった)

 福村と協力すると約束した後、山崎の家を出ようとしたのだが、暴風雨がまだ猛威をふるっており徒歩では帰れそうになかったのだ。

『送ろう』

 福村の短い言葉に思わず頷くと、福村がスマホを取り出して画面を麻里へと向けた。

『何かあれば、連絡してくれないか? 夜中でも構わない。麻里からの呼び出しならすぐに駆けつける』

 そう言って微笑む彼の瞳は、強い光を宿していた。
 思い出すだけで、今でも胸の奥が焼けるように熱くなる。

 けれど麻里の心を占めていたのは、そんな甘い感傷だけではなかった。
 福村のことを思い出すと、同時に山崎の悲痛な声が頭をよぎる。

『あぁ先生、私は奴らの悪行を引き出しに詰め込みました……!』

 引き出し。
 それはおそらく鍵がかかっているのだろう。あの古びた真鍮の鍵が役に立つのかもしれない。

(山崎さんの家にある引き出しで、あのアンティーク調の鍵が合いそうな場所といえば……)

 麻里はこれまでの訪問介護の中で、何度となく目にしてきた室内の光景を思い浮かべる。
 寝室の奥に金庫があるが、それとは全く合いそうにない。
 それよりも、居間の隅にひっそりと佇む小さく古い木製のチェスト。若い頃に妻からプレゼントされた物らしい。
 細かな引き出しがいくつもついたあの和家具なら、あの小さな鍵がぴったりと嵌まる鍵穴があってもおかしくはない。

(確かめてみたいけれど……)

 いくら確信に似た推測があっても、介護士である麻里が独断で動くわけにはいかない。

「これは事件に関係することだもの。相談してもおかしくないわよね」

 麻里はスマホをタップし、福村とのメッセージ画面を開く。
 そして事の顛末をすべて相談した。
 ソファの下から鍵を見つけたこと。それが居間のチェストの鍵である可能性が高いこと。そして、山崎さんの容疑を晴らす証拠が、そこにあるかもしれないということを――。



< 30 / 65 >

この作品をシェア

pagetop