【長編版】冷徹弁護士の甘い執着〜八年前の初恋相手に、もう一度捕らわれる〜
 数日後、山崎の家に福村が訪れていた。
 台風の日とは打って変わって、雲一つない穏やかな天候だ。そのせいか、今日の山崎は体調がいつもより安定しており、意識も明瞭だった。

「本日もよろしくお願いします」

 頭を下げる福村に対して、山崎は穏やかな表情で頷いていた。
 山崎と福村、そして麻里が向かい合って座る。

「今日は福村先生と私から、山崎さんにお願いがあるんです」
「なんだい?」

 麻里は福村と視線を交わし、真鍮の鍵を山崎の前にそっと差し出した。

「山崎さん。先日、こちらの鍵についてお伺いしたのを覚えていますか?」
「うん? あぁ……確か、ソファーの下に落ちていたという……」
「この鍵、あそこのチェストの鍵だと思うんです」
「あぁ……そうだったかもしれないねえ」

 山崎は頷いてチェストに目を向けた。
 その瞬間、彼の表情が少しだけ曇る。

「あそこには……大事なものを入れていたかもしれないな」
「私もそう思います。……以前、山崎さんは『奴らの悪行を引き出しに詰め込んだ』と仰っていましたから」

 山崎の身体が、一瞬だけ硬直した。しかし麻里はその手を優しく包み込み、安心させるように微笑みかける。

「もしかして、あのチェストの中に山崎さんが命がけで残した大切な記録があるのではないですか? 私たちは、山崎さんを救いたいんです。だから……あのチェストを、この鍵を使って開ける許可をいただけませんか?」

 山崎はしばらくの間、鍵をじっと見つめていた。
 しかし身体の硬直はもうない。冷や汗ひとつかいていなかった。

 やがて、深い溜息とともに山崎の肩から力が抜ける。

「私は、あそこに隠したんだったな。家族を守るために。いつか告発しようと……」

 山崎は鍵を手に取ると、麻里に握らせた。

「佐倉さん、先生。どうかあの中を確かめてください」

 その言葉は、山崎の明確な意志による許可だった。

「はい。しっかりとお預かりします」

 麻里は山崎の手をしっかりと握りしめると、内心安堵のため息をついた。介護士としての最後の一線を守りきったという安堵だった。

 胸のすくような思いで福村の方を向くと、彼は眼鏡の奥の瞳を鋭い光を宿して小さく頷いた。



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