【長編版】冷徹弁護士の甘い執着〜八年前の初恋相手に、もう一度捕らわれる〜
 そして日が沈んだ頃。山崎が眠るのを見届け、今日の業務を終えた麻里は、退勤の準備を整えていた。

「よし、帰ろう」

 いつものように屋敷内の戸締まりや火の元を確認し、玄関のドアノブに手をかけた。
 その時――。

(あれっ?)

 麻里は何とも言えない胸騒ぎがした。
 居間に戻り、窓の隙間からそっと外の路地を覗き込む。

「知らない車……」

 山崎宅の目の前の狭い路地に、一台の黒い高級ワンボックスカーがハザードランプを点滅させながら停車していた。エンジンはかかったままで、マフラーから白い排気ガスが立ち上っている。

 完全に真っ黒なスモークガラスで覆われているため、中の様子は窺えない。
 けれど、それはあまりに不気味だった。

(この辺りに用があるようには見えない。まさか……山崎さんの監視?)

 山崎の残した音声が頭の中で鳴り響く。あのガラの悪そうな男がそこにいるのではないか。
 そんな嫌な妄想が頭をよぎる。背中に冷や汗が一筋流れ、麻里はぶるりと身体を震わせた。

(どうしよう……怖い)

 本当は全く関係のない車なのかもしれない。
 しかし屋敷周辺の最近の治安の悪さも相まって、麻里は動けなくなってしまう。

 数分悩んだ末、麻里はスマホを手に取った。

『何かあれば、連絡してくれないか? 夜中でも構わない。麻里からの呼び出しならすぐに駆けつける』

 あの夜の正樹の言葉にすがるように、彼の連絡先を表示させる。
 麻里は震える指先でメッセージを打ち込んだ。

『正樹さん、助けてください。山崎さんの家の周りに不審な車が停まっているんです』

 送信ボタンを押すとすぐに既読がつく。
 そして間髪入れずにスマホが震えだした。

「もしもし、正樹さん?」
「麻里、大丈夫か?」
「はいっ……!」

 電話越しに聞こえてくる彼の低く優しい声に、麻里は言葉を詰まらせた。

「すぐ向かうから待ってて。窓の外はもう覗かなくていい」
「はい……」

 電話が切れると、麻里は力が抜けたようにその場に座り込んだ。
 時計の針の音がやけに大きく聞こえる。
 麻里は目を瞑り、うずくまった。

 ――ピンポーン。

 麻里はインターホンの音にびくりと顔を上げた。時計を見ると、三十分程度しかたっていない。

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