【長編版】冷徹弁護士の甘い執着〜八年前の初恋相手に、もう一度捕らわれる〜
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 八年前。福村正樹は、自身の能力を正しく理解していた。
 否、理解していたと勘違いしていた。

 司法試験には在学中に一発合格していたし、国内最高峰である鳳法律事務所への入所も内定していた。法を正しく使えば、すべてをコントロールできると自惚れていたのだ。

 しかしその自惚れを一年生だった後輩、麻里に正されたのだ。

『さっきの講義でのディスカッション、福村先輩はもう少し依頼者に寄り添うべきでした。あの条件では明記されていませんでしたが、依頼者の背景は簡単に推測できますし、それを踏まえると適切な対応とは言いがたいです』

 彼女はいつだって真っ直ぐで、依頼主を尊重する立場を徹底していた。
 最初は理想論で未熟な意見ばかり言う奴だと思っていたのに、いつしか彼女との意見交換が楽しみになっていた。

 対外的に最大の利益、最大の効率であれば良いという自分に対し、他人のために平気で損をする麻里の存在は刺激的だった。
 それに、あの陽だまりのような笑顔。
 気づけばその純粋さに救われ、誰よりも特別な存在になっていた。

 それなのに――。

『福村先輩……私、今日付でこの学校を去ることになりました』

 ある日突然、麻里は大学を退学して正樹の前から姿を消した。
 携帯の番号は変えられ、大学付近に借りていたアパートも引き払われていた。

『私、頑張ります』

 あの時、泣き出しそうになりながら気丈に微笑んでいた彼女の顔が頭を離れない。

 なぜ、あの時引き留めなかったのか。
 なぜ、あの時理由を聞かなかったのか。

 そんな後悔ばかりが頭を支配する。
 そしてようやく、「佐倉麻里が好きだった」ということに気がついたのだ。

「……らしくないな」

 さんざん悩み、後悔しつくした正樹は、悩むのを止めた。
 そして自分が持てる全ての力を使って麻里を探し始めたのだ。

 なぜ、彼女が退学する必要があったのか。
 なぜ、自分の前からきれいさっぱり消えたのか。

 調査の結果行き着いたのが『ミツルギ重工情報流出事件』と、それに伴う彼女の父親のリストラだった。

(俺は……あの時、何一つ知らなかった。彼女がどんなに悩んでいたか。どんな思いで笑って去っていったのか)

 麻里が大学を去った理由を知った正樹は、ミツルギ重工の代理人に登り詰めた。
 調べれば調べるほど、『ミツルギ重工情報流出事件』は不審な点が多かったのだ。

(これは不運な事件なのではない。どこかの企業が裏で糸を引いているはずだ)

 そう確信していたからだ。
 事件の真相を探り出し、麻里の父の名誉を回復させる。

(彼女にあんな顔をさせた奴を必ず裁いてやる)

 それが正樹の狙いだった。

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