【長編版】冷徹弁護士の甘い執着〜八年前の初恋相手に、もう一度捕らわれる〜
 だからこそ山崎徳三郎の尻尾を掴んだ時、小さな違和感を無視して彼の屋敷へと向かったのだ。
 そこで麻里が働いているとも知らずに――。

『山崎さんは今、その署名に応じられません』

 彼女は八年前と変わっていなかった。
 依頼人を最優先に考え、こちらの過ちを真っ直ぐに指摘する。

 人生をかけた仕事のはずなのに、つかの間、彼女との議論を楽しんでいた。

(やはり麻里は麻里だ。やっと会えたんだ。もう離したくない)

 山崎のもとに通ううちに、その想いは強くなる。
 いつしか不思議な協力関係になっていたが、そのお陰で山崎ではなくシンセイ開発という諸悪の根元を見つけ出すことが出来たのだ。

『ありがとうございます、福村先輩……』

 山崎が脅されていたという確固たる証拠を手に入れた麻里は、心から安堵した表情で正樹に微笑みかけた。
 その顔を見ていたら、抑えてきた八年間の想いが溢れてしまった。

『はい。私も、先輩と一緒にいたいですっ……!』

 こぼれ落ちた告白の言葉に、彼女は泣き笑いながら応えてくれた。
 抱き締めて口づけを交わすと、ようやく実感が湧いてきた。

(この先、もう失いたくない。麻里のいく道を妨げるものは、全て排除する)

 そう心に強く誓ったのだった。


***

 麻里との再会を思い返しているうちに、気がつくと正樹は万年筆を強く握りしめていた。
 
(そろそろ明日の準備をして帰るか)

 サイバー攻撃に関する報告書にコメントを返すと、帰宅の準備を始める。
 するとポケットにいれていたスマートフォンがブルブルと静かに振動した。

 取り出して画面に視線を落とすと、正樹は大きく目を見開いた。

 画面に表示されたのは、最近連絡先を交換したばかりの麻里だった。
 すぐにメッセージを開く。するとそこには悲痛な文字が並んでいた。

『正樹さん、助けてください。山崎さんの家の周りに不審な車が停まっているんです』

 読んだ瞬間、正樹の脳内に二つの相反する感情が弾けた。
 彼女が自分を頼ってくれたという喜び。そして、麻里を害する者に対する怒り。

(山崎さん狙いか? まさか、麻里を……? すぐに対処しなければ)

 山崎宅の周辺の不審な車。それはミツルギ重工へのサイバー攻撃と、あまりにタイミングが合いすぎている。
 シンセイ開発は山崎が証拠を他に渡すのを阻止するため、あるいは口封じのために動き出したのだろう。

「もう奴らの思いどおりにさせるものか!」

 正樹はすぐに麻里の番号をタップし、耳元にスマホを当てた。コールが鳴るか鳴らないかのうちに繋がる。

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