【長編版】冷徹弁護士の甘い執着〜八年前の初恋相手に、もう一度捕らわれる〜
4.反撃開始
 数日後。麻里はスーツケースを引き、息を切らしながらタワーマンションのエントランスに立ち尽くしていた。
 艶やかな大理石の床には自分の影が映っている。
 自動ドアを開けてくれたコンシェルジュが、麻里を見てにこりと微笑み頭を下げる。慌てて頭を下げる麻里だったが、あまりにも現実離れしたラグジュアリーな空間に既に帰りたくなっていた。

「麻里、こっち」

 エレベーターから顔を出した正樹が麻里を手招きする。
 ここは正樹の住まうマンションなのだ。

「お、お世話になります……」

 麻里はスーツケースを引っ張りながら彼のもとへと駆け寄る。

(今日からここで暮らすなんてっ……!)

 麻里の安全を確保するために正樹から提示された場所が、ここだったのだ。

『麻里のことが心配なんだ』
『もし君に何かあったら、八年前以上に後悔する』
『もう、あんな思いはしたくない。分かってくれ……』

 当然断るつもりだったのに、そんな風に言われたら首を縦に振るしかなかった。

 とんでもないことになった、と麻里は背中に冷や汗をかきながら、彼とともにエレベーターに乗り込む。
 そっと正樹を仰ぎ見ると、彼はどことなく上機嫌のようだ。

(いきなり一緒に暮らす人が増えるのに、正樹さんは嫌じゃないんだ)

 仕方なく呼び寄せられた訳ではないのかもしれない。
 そう思うと、少しだけ安心した。

「そんなに見られると穴が開きそうだ」
「すっ、すみません!」

 前を向いていたはずの正樹が口角をあげる。
 麻里は熱くなった頬を押さえて俯いた。

(もう、はやく到着してっ……)



 エレベーターは最上階のフロアへと到着した。正樹に連れられて、大きな玄関の扉の前に立つ。

「どうぞ」

  一歩足を踏み入れた正樹の自宅は、白とダークブラウンを基調としたモデルルームのような空間だった。生活感がまるで感じられない。唯一モデルルームと違うのは、やたら本棚が多いくらいなものだろう。
 リビングの奥に見える大きなガラス窓の向こうには、東京の街並みがミニチュアのように並んでいた。

「こ、ここで暮らしているんですか? お一人で?」
「あぁ、事務所からもミツルギ重工からも近いからな」

 自分の暮らしとは大違いだ。
 麻里が呆然と立ち尽くしていると、正樹は少し心配そうな表情で麻里の顔を覗き込んだ。

「ひとまずは安心していい。ここは居住者以外の立ち入りは厳重に制限されている。シンセイ開発の関係者が敷地内に入ってくることはない」

(確かに怪しい人は入ってこられないでしょうけど……別の緊張感があるわ)

 麻里がソワソワと部屋を見回していると、正樹はリビングのソファーへと麻里を促した。
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