【長編版】冷徹弁護士の甘い執着〜八年前の初恋相手に、もう一度捕らわれる〜
 誘われるままに上質なソファーに腰を下ろしたが、緊張は抜けない。麻里は背筋をピンと伸ばしたまま、膝の上で手をぎゅっと握りしめた。

(場違いだわ。こんな所にいていいの? 私だけ……)

「……正樹さん」
「なんだ?」
「あの、えっと、山崎さんは……もう療養施設に移られたんですか?」

 山崎にはあの日以来会えていない。
 自分だけが安全な場所にいる気がして、急に不安が込み上げてきた。

 すると正樹は「麻里は本当に他人の心配ばかりだな」と言いながらキッチンへ向かい、手際よく二つのマグカップに温かいハーブティーを用意した。
 差し出されたマグカップを受け取ると、彼はふっと表情を和らげる。

 正樹は麻里の隣に腰掛けると、スマートフォンを操作して画面を麻里に見せた。
 そこには、どこかホテルのように美しい内装の個室で穏やかに微笑む山崎の姿が写し出されていた。

「俺が手配したシニアレジデンスだ。最高峰の医療ケアと警備がついている。今日、無事に入所手続きが完了したと連絡があった。シンセイ開発の手は絶対に届かない。……これで安心したか?」
「……良かった。山崎さんに何があったら、私、一生自分を許せないところでした」

 麻里は安堵のため息をつくと、身体ごと正樹の方を向き「ありがとうございます」と頭を下げた。
 そして顔を上げようとすると、瞳からポタリと涙がこぼれ落ちた。

「あれ? すみません」

 怪しい車を見かけてから今日まで準備が慌ただしくて、今ごろになって恐怖と安堵が同時にやってきた気分だった。

(そうだ。私、怖かったんだ……)

 慌てて目を擦ると、正樹の手によってそれが阻まれた。
 代わりに彼の指先が麻里の目元をそっとなぞる。そのまま彼は麻里の頭を優しく引き寄せ、胸の中に包み込んだ。

「麻里が泣く必要も、怯える必要も、これからは一切ない。俺が全て守る」

 シャツ越しに伝わる正樹の力強い心臓の鼓動とほのかに香る香水の匂いが、麻里を優しく包み込む。
 お礼を言いたかったけれど、口を開くともっと泣いてしまいそうで、麻里は何度も頷いた。


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