【長編版】冷徹弁護士の甘い執着〜八年前の初恋相手に、もう一度捕らわれる〜
食卓に着いて麻里の料理を口に運んだ正樹は、一瞬だけ目を見張った後にふっと柔らかく微笑んだ。
「麻里は介護だけでなく料理も得意なんだな」
「そんな大した腕前ではないですが……ありがとうございます」
麻里が照れたように笑うと、正樹は本当に幸せそうに料理を平らげてくれた。
(なんだか夫婦みたい)
場違いなことを考えているのは分かっている。
けれど八年越しの初恋相手と恋人になれただけでなく、こうして同居までしているのだ。浮かれてしまうのも仕方がないことだった。
食事の後、リビングの広いソファで二人で並んで座っていると、正樹が自然な動作で麻里を自分の膝の上に引き寄せた。そのまま後ろから包み込むように抱きしめられ麻里が戸惑っていると、彼のごつごつとした手が麻里の髪をそっと撫でる。
「ま、正樹さん?」
「あぁ……俺は浮かれているのかもしれないな。ずっと、こんな風に暮らせたらどんなにいいか……。シンセイ開発との交渉が終わっても、麻里を帰したくない。……なんてな。忘れてくれ」
「わ、私もっ!」
麻里は顔を赤くしながらも、彼の方も向いて口を開いた。それはまるで先程の自分のようだったから。
「私も……緊急事態だって分かってるんですけど、正樹さんとこうして暮らせて幸せです」
そう言って彼の胸に顔をうずめる。恥ずかしくて彼の顔を直視できなかった。
すると彼から低い笑い声がこぼれた。震えているのが伝わってくる。
思わず顔をあげると、彼は愛おしそうに目を細め、麻里を見つめていた。
二人は見つめ合い、なにも言わずに唇を重ねるのだった。
翌日。
正樹は珍しく自宅でオンライン会議に臨んでいた。リビングの奥にある書斎に籠もっており、麻里は邪魔をしないようにひっそりと過ごしていた。
リビングでお茶を飲みながら、麻里はふと本棚に目を留めた。
(せっかくだし、なにか読もうかしら)
そっと歩み寄り、そこに並ぶ本の背表紙を眺めてみる。やはり弁護士の自宅だけあって、最新の民法や商法の判例集、企業のコンプライアンスに関する専門書、英語やドイツ語で書かれた分厚い洋書などが整然と並んでいる。
(知らない本ばかり。正樹さんはずっと遠いところに行ってしまったのね。本物の弁護士だもの。……なんて、法曹の世界から勝手に外れたのは私の方だった)
自分の生きる世界とは違う知識の山に圧倒されながらも、視線を下へと滑らせていく。
すると本棚の最下段の隅に、少しだけ周囲の装丁とは異なる年季の入った分厚い教科書が並んでいるのを見つけた。
「あ……これ……」
麻里は思わずその場にしゃがみ込み、一冊の分厚い教科書を手に取った。
それは大学時代、麻里も持っていた教科書だった。表紙の端が少し擦り切れている。
そっとページをめくると、正樹の几帳面な字で所々に書き込みがされている。
「懐かしいな」
正樹の後ろを追いかけ、ともに議論していたあの頃。その空気がまだ残っているようだった。
(正樹さん、まだこれを持っていたんだ……)
懐かしさとともにあの頃の別れを思い出し、胸の奥が締め付けられた。
書かれている文章をそっと指でなぞると、あの頃の思い出が次々と頭に浮かんでは消えていく。
麻里はその教科書を一度ぎゅっと抱き締めると、ソファーに座って頭から読み始めた。
懐かしさを噛み締めていたはずが、気がつくと麻里は夢中になっていた。
「麻里は介護だけでなく料理も得意なんだな」
「そんな大した腕前ではないですが……ありがとうございます」
麻里が照れたように笑うと、正樹は本当に幸せそうに料理を平らげてくれた。
(なんだか夫婦みたい)
場違いなことを考えているのは分かっている。
けれど八年越しの初恋相手と恋人になれただけでなく、こうして同居までしているのだ。浮かれてしまうのも仕方がないことだった。
食事の後、リビングの広いソファで二人で並んで座っていると、正樹が自然な動作で麻里を自分の膝の上に引き寄せた。そのまま後ろから包み込むように抱きしめられ麻里が戸惑っていると、彼のごつごつとした手が麻里の髪をそっと撫でる。
「ま、正樹さん?」
「あぁ……俺は浮かれているのかもしれないな。ずっと、こんな風に暮らせたらどんなにいいか……。シンセイ開発との交渉が終わっても、麻里を帰したくない。……なんてな。忘れてくれ」
「わ、私もっ!」
麻里は顔を赤くしながらも、彼の方も向いて口を開いた。それはまるで先程の自分のようだったから。
「私も……緊急事態だって分かってるんですけど、正樹さんとこうして暮らせて幸せです」
そう言って彼の胸に顔をうずめる。恥ずかしくて彼の顔を直視できなかった。
すると彼から低い笑い声がこぼれた。震えているのが伝わってくる。
思わず顔をあげると、彼は愛おしそうに目を細め、麻里を見つめていた。
二人は見つめ合い、なにも言わずに唇を重ねるのだった。
翌日。
正樹は珍しく自宅でオンライン会議に臨んでいた。リビングの奥にある書斎に籠もっており、麻里は邪魔をしないようにひっそりと過ごしていた。
リビングでお茶を飲みながら、麻里はふと本棚に目を留めた。
(せっかくだし、なにか読もうかしら)
そっと歩み寄り、そこに並ぶ本の背表紙を眺めてみる。やはり弁護士の自宅だけあって、最新の民法や商法の判例集、企業のコンプライアンスに関する専門書、英語やドイツ語で書かれた分厚い洋書などが整然と並んでいる。
(知らない本ばかり。正樹さんはずっと遠いところに行ってしまったのね。本物の弁護士だもの。……なんて、法曹の世界から勝手に外れたのは私の方だった)
自分の生きる世界とは違う知識の山に圧倒されながらも、視線を下へと滑らせていく。
すると本棚の最下段の隅に、少しだけ周囲の装丁とは異なる年季の入った分厚い教科書が並んでいるのを見つけた。
「あ……これ……」
麻里は思わずその場にしゃがみ込み、一冊の分厚い教科書を手に取った。
それは大学時代、麻里も持っていた教科書だった。表紙の端が少し擦り切れている。
そっとページをめくると、正樹の几帳面な字で所々に書き込みがされている。
「懐かしいな」
正樹の後ろを追いかけ、ともに議論していたあの頃。その空気がまだ残っているようだった。
(正樹さん、まだこれを持っていたんだ……)
懐かしさとともにあの頃の別れを思い出し、胸の奥が締め付けられた。
書かれている文章をそっと指でなぞると、あの頃の思い出が次々と頭に浮かんでは消えていく。
麻里はその教科書を一度ぎゅっと抱き締めると、ソファーに座って頭から読み始めた。
懐かしさを噛み締めていたはずが、気がつくと麻里は夢中になっていた。