【長編版】冷徹弁護士の甘い執着〜八年前の初恋相手に、もう一度捕らわれる〜
 一週間かけて調べた判例は、どれも今回の事例では弁護士法違反に当たらない可能性が高かった。

「木下がシンセイ開発と相談を受けていた証拠がなにかひとつでもあれば良いんですけど……」
「それは難しいだろうな。シンセイ開発側は特に注意していたはずだ」
「そうですよね」

 結局、木下を起訴することは難しいという結論になった。

「損害賠償請求をするにしても……なんだか不気味です。手の内を全て知られているようで」
「そうだな。木下はこちらが入手出来る証拠が何なのか、分かっているだろう。だからこそ山崎さんの残した記録を手にした時、いち早く対応してきたんだ。奴はおそらくこちらの出方を予測した上で対応策を練っている。物証の存在だけでは、『当時の経営陣が勝手にやったことで、今のシンセイ開発には関係ない』と個人の問題にすり替えられる可能性が高い」

 正樹は短く息を吐き、天を仰いだ。

「……少し、休憩しませんか?」

 麻里は眉間に深い皺を寄せた正樹を書斎の外へと引っ張り出した。



 麻里はリビングのソファーに正樹を座らせ、グラスを手渡した。グラスの中ではシュワシュワと炭酸が泡立っている。

「これは?」
「レモンスカッシュです。野菜の定期便にレモンが入っていたので使ってみたんです。ほら、気分転換出来そうでしょう?」

 麻里は自分のグラスを正樹のグラスに軽く当てると、先に飲み始めた。

「……っはぁー! ほら、正樹さんも」

 麻里が促すと、彼も思いっきりレモンスカッシュを口に含んだ。

「くっ……結構濃いな」
「でもスッキリしたでしょう?」

 正樹が思い切り顔しかめる。それなんだか可笑しくて、麻里はくすくすと笑いがこぼれた。すると正樹も眉をへにゃりと下げる。

「確かに気分転換にはもってこいだな。頭も軽くなった」
「それなら良かったです。煮詰まった時に悩んでも、解決策は出ませんもんね」

 表情が和らいだ正樹を見て麻里も微笑む。

(正樹さんはストイックだから、こうやって無理やりにでも休憩させた方が良いのかも。……八方塞がりなことに変わりはないけど)

 麻里が何気なく視線を泳がせると、リビングの本棚が目に入った。
 最近よくお世話になる本たち。その中の「高齢者の刑事責任能力」に関する本が目に入った。

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