【長編版】冷徹弁護士の甘い執着〜八年前の初恋相手に、もう一度捕らわれる〜
内容証明郵便を発送してから一週間を過ぎた頃。
鳳法律事務所の正樹のデスクに、シンセイ開発および木下弁護士からの返答書面が届けられた。
『ミツルギ重工の情報流出に関して、当時の経営陣の一部が関与していたことは間違いない。しかし既に退職した一個人の事案との認識である。弊社は法人としての関与は一切否定する。また、指摘にあるような強迫の事実は一切存在しない。なお、木下弁護士個人の資産運用についても正当な業務委託契約に基づくものであり、何ら違法性はない』
書面の体裁こそ整っていたものの、そこに並んでいるのは事実上の「請求の全面拒否」だった。
「退職者に責任を擦り付けて……トカゲの尻尾切りね」
正樹の横で書面をのぞき込んでいた麻里は、じりじりと唇を噛んだ。
すべてを当時の経営陣個人の責任にすり替え、木下の裏報酬も「正当な契約」だと言い張る。当時の状況と法律を熟知している木下らしい、傲慢で強気な突っぱね方だった。
「まさかここまで否定してくるとは思いませんでした。正樹さん、これはどう動けば……」
麻里が困惑気味に尋ねると、正樹は眉一つ動かさず、むしろ満足そうに薄く口角を上げた。
眼鏡の奥の切れ長な瞳にはギラギラとした光が宿っている。
「これでいい。内容証明に対してこれだけ杜撰な否認をしてくれたのは、むしろこちらの狙い通りだ」
「狙い通り、ですか?」
「あぁ。彼らが非を認めて内々に示談を申し込んできたら、社会的な根絶やしには時間がかかった。だが、事実を完全に否認したことで、彼らの悪質性が増した。……直接名指しで違法性を問われた木下は焦っている。だからこそ、こちらの出方を見るために一度突っぱねるしかなかったんだろうがな」
正樹はデスクの引き出しから、麻里と共に一か月近くかけて精査し完成させた膨大な証拠ファイルの束を取り出した。
山崎の古い日記、悪意に満ちた音声データ、そして木下の隠し口座と半グレ団体への資金移動の全記録。
それらを並べると、正樹は不敵な笑みを浮かべた。
「交渉は決裂だ。次のフェーズに移行するとしよう」
正樹はスマホを取り出すと、どこかへ電話をかけ始めた。
「――俺だ。手配していた警視庁捜査二課の担当官に連絡を入れろ。予定どおり、シンセイ開発および木下弁護士に対する組織犯罪処罰法違反、および強迫罪の『告訴状』を提出する。……あぁ、証拠一式もすべてだ。向こうの準備はできているはずだからな」
電話を聞いていた麻里は目が飛び出てしまいそうなほど驚いた。
(こ、告訴? もうそこまで……)
唖然とした表情で正樹を見つめていると、電話を切った正樹が口角を上げた。
「最初からそのつもりだったんですか? 警視庁側も準備が出来ているってことは……」
「あぁ。証拠が全て揃った時点で、警視庁へ事前相談をしていたんだ。シンセイ開発は必ず全面拒否してくるだろうと分かっていたからな。だが、奴らの犯した罪は損害賠償だけでは償えない。しっかりと刑事罰を受けてもらう」
正樹はミツルギ重工の代理人として、ずっと先を見据えていたのだろう。
彼の姿がとても頼もしく、そして眩しかった。
鳳法律事務所の正樹のデスクに、シンセイ開発および木下弁護士からの返答書面が届けられた。
『ミツルギ重工の情報流出に関して、当時の経営陣の一部が関与していたことは間違いない。しかし既に退職した一個人の事案との認識である。弊社は法人としての関与は一切否定する。また、指摘にあるような強迫の事実は一切存在しない。なお、木下弁護士個人の資産運用についても正当な業務委託契約に基づくものであり、何ら違法性はない』
書面の体裁こそ整っていたものの、そこに並んでいるのは事実上の「請求の全面拒否」だった。
「退職者に責任を擦り付けて……トカゲの尻尾切りね」
正樹の横で書面をのぞき込んでいた麻里は、じりじりと唇を噛んだ。
すべてを当時の経営陣個人の責任にすり替え、木下の裏報酬も「正当な契約」だと言い張る。当時の状況と法律を熟知している木下らしい、傲慢で強気な突っぱね方だった。
「まさかここまで否定してくるとは思いませんでした。正樹さん、これはどう動けば……」
麻里が困惑気味に尋ねると、正樹は眉一つ動かさず、むしろ満足そうに薄く口角を上げた。
眼鏡の奥の切れ長な瞳にはギラギラとした光が宿っている。
「これでいい。内容証明に対してこれだけ杜撰な否認をしてくれたのは、むしろこちらの狙い通りだ」
「狙い通り、ですか?」
「あぁ。彼らが非を認めて内々に示談を申し込んできたら、社会的な根絶やしには時間がかかった。だが、事実を完全に否認したことで、彼らの悪質性が増した。……直接名指しで違法性を問われた木下は焦っている。だからこそ、こちらの出方を見るために一度突っぱねるしかなかったんだろうがな」
正樹はデスクの引き出しから、麻里と共に一か月近くかけて精査し完成させた膨大な証拠ファイルの束を取り出した。
山崎の古い日記、悪意に満ちた音声データ、そして木下の隠し口座と半グレ団体への資金移動の全記録。
それらを並べると、正樹は不敵な笑みを浮かべた。
「交渉は決裂だ。次のフェーズに移行するとしよう」
正樹はスマホを取り出すと、どこかへ電話をかけ始めた。
「――俺だ。手配していた警視庁捜査二課の担当官に連絡を入れろ。予定どおり、シンセイ開発および木下弁護士に対する組織犯罪処罰法違反、および強迫罪の『告訴状』を提出する。……あぁ、証拠一式もすべてだ。向こうの準備はできているはずだからな」
電話を聞いていた麻里は目が飛び出てしまいそうなほど驚いた。
(こ、告訴? もうそこまで……)
唖然とした表情で正樹を見つめていると、電話を切った正樹が口角を上げた。
「最初からそのつもりだったんですか? 警視庁側も準備が出来ているってことは……」
「あぁ。証拠が全て揃った時点で、警視庁へ事前相談をしていたんだ。シンセイ開発は必ず全面拒否してくるだろうと分かっていたからな。だが、奴らの犯した罪は損害賠償だけでは償えない。しっかりと刑事罰を受けてもらう」
正樹はミツルギ重工の代理人として、ずっと先を見据えていたのだろう。
彼の姿がとても頼もしく、そして眩しかった。