【長編版】冷徹弁護士の甘い執着〜八年前の初恋相手に、もう一度捕らわれる〜
 告訴状の提出から、麻里が予想していた以上に激動な日々が過ぎていった。
 鳳法律事務所とミツルギ重工が事前に水面下で警察上層部への根回しを完璧に済ませていたこと、そして提出された証拠が言い逃れの不可能なほど完璧だったことが、捜査を爆発的に加速させたのだ。

 告訴状提出からわずか四日後の早朝。テレビのニュース番組が、臨時ニュースを告げた。

『本日早朝、警視庁は不動産開発会社「シンセイ開発」の社長室、および同社の代理人を務める木下弁護士の自宅、事務所に家宅捜索に入りました。八年前のミツルギ重工情報流出事件に関与していたとみられ、容組織犯罪処罰法違反、および強迫の疑いで――』

 リビングのテレビ画面には、シンセイ開発前の映像や木下の自宅が映し出されていた。パッと場面が変わると、押し寄せる報道陣と警察官に囲まれて険しい表情で車に乗り込む木下の姿が映る。

(この人が木下弁護士……。山崎さんを苦しめた人)

 かつてミツルギ重工を裏切り、裏で糸を引いていた男だ。
 そう思うのだが、あまりにも呆気ない幕引きだ。と思ってしまうのも事実だった。

(内容証明はあんな風に突っぱねたのに……本当にこれで終わったの?)

 悔しいような、ホッとしたような、まだ夢を見ているかのような、複雑な感情が麻里を支配していた。



 連日ニュースが繰り返し報道されると、麻里にもようやく実感が湧いてきた。

「本当に逮捕されたんですね」

 麻里が呟くと、隣に座って一緒にテレビをみていた正樹が神妙な顔で頷いた。

「当然の結果だ。木下から半グレ団体への資金移動が確認された時点で、警察としても動かざるを得ない。シンセイ開発の幹部数名も同時に身柄を押さえられた。これ以上の証拠隠滅も、麻里や山崎さんへの実力行使も、もう二度とできない」
「山崎さんは……山崎さんは大丈夫なんですか? 脅されていたとはいえ、情報流出に手を貸したとみなされて罪に問われたり……」
「それはない」

 麻里が不安げに呟くと。正樹はいつものように冷静な口調で断言した。

「警視庁には山崎さんが不当な強迫を受け心神が著しく消耗していた証拠として、あの日記と音声データを提出してある。山崎さんは完全な『被害者』だ。形式的な事情聴取はレジデンスの個室で行われるが、処分や起訴の対象には一切ならない。俺がミツルギ重工の代理人として、その方針で完全に合意してもらっている
「そうですか、良かった……」

 麻里は安堵で胸を押さえ、ソファーの背もたれに身体を預けた。
 介護士としての麻里にとっては、山崎が傷つくことが最大の懸念事項だったから。

 細く長いため息をついていると、正樹が麻里の肩を抱き寄せた。

「大丈夫だ。麻里が心配するようなことは、何一つ起こさせない」

 その言葉通り、正樹の対応は完璧だった。
 マスコミが事件を派手に取り上げ、連日テレビでシンセイ開発の闇が暴かれる中、被害者である山崎の名前は一切報道されることはなかった。
 あくまで「ミツルギ重工に当時勤めていた社員が脅されて情報流出に手を貸した」と完全に匿名で報道されていた。
 麻里はいくつかの報道番組やネットニュースを確認し、ほっと胸を撫で下ろしたのだった。



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