【長編版】冷徹弁護士の甘い執着〜八年前の初恋相手に、もう一度捕らわれる〜
 事件の報道が連日日本中を騒がせる中、麻里の元に一通の手紙が届いた。それは山崎の娘、山崎梓からだった。

『父が佐倉さんと話したいと言っています。テレビ通話でお話出来ませんか?』

 彼女とは山崎の介護が始まった頃に一度会ったきりだ。
 今は実家を出て就職していると言っていたが、山崎がシニアレジデンスに入ってからは、時折会いに行っていたようだ。

『私もお話ししたいです。是非お願いします』

 麻里が返事を返すと、程なく日時と連絡先が送られてきた。 



 そして約束の日。

「緊張してるのか?」 
「はい……」

 麻里は画面の前で固まっていた。

(だって、よく考えたら『話がしたい』って良い意味とは限らないわよね?)

 向こうからすれば、穏やかな暮らしを壊した弁護士とそれに勝手に協力した介護士ともとれる。

(私が勝手にやったことに違いないわ。何を言われても受け止める!)

「か、かけますね」

 麻里は気合を入れると、通話ボタンを押した。
 ほどなくして画面に映し出されたのは、楽しそうに微笑んでいる山崎と梓の姿だった。彼らの背後にはホテルのように美しいシニアレジデンスの一角が映っている。

「あ、お父さん、映ったよ! 佐倉さーん、福村さーん、お久しぶりです」
「佐倉さんかい? 久しぶりだねぇ。先生も、元気そうだね」

 麻里の予想に反して、二人はにこやかに麻里たちに手を振った。

「お久しぶりです。山崎さん、お加減いかがですか? 何か不自由はありませんか?」

 麻里が声をかけると二人はにこにこと「不自由なんて!」と首を横に振った。

「先生がご用意してくださったレジデンス、思った以上に過ごしやすいみたいです」
「そりゃあ自宅が一番だがね。たまのバカンスだと思って満喫していますよ」

 すると正樹が「良かったです」と横で笑みを浮かべた。

「何かご要望があれば、受付かこちらに連絡くだされば改善しますので、遠慮なく申し付けてください」
「ありがとうございます」

 和やかな雑談が始まり、麻里は山崎がレジデンスで問題なく暮らしていることに心底安堵していた。

(山崎さんの体調も安定しているみたいで良かった)

「そうだ、今日はお礼をしたくて連絡したんです」

 梓が思い出したように手をパンと叩いた。

「父を長年の苦しみから救ってくださって、本当にありがとうございます。最初、先生から話を伺った時は驚きましたけど……。佐倉さんが父を守るために一生懸命動いてくださったこと、本当に感謝しているんです。私が面倒を見ていたら、ニュースに報道されていたのは父の名前だったでしょう』

 梓の瞳が微かに潤む。

「警察の方からも、父は完全に被害者だから何の罪にも問われないって正式に言われました。本当にありがとうございます。先生と佐倉さんには感謝してもしきれません」
「佐倉さん、先生、本当にありがとう。ようやく……楽になった」

 画面の向こうで山崎と梓が深く頭を下げる。
 その二人の言葉を聞いて、麻里の目頭に熱いものが込み上げた。上手く言葉が出ない。

 すると正樹が二人に「今回の件、僕は山崎さん達にご迷惑をおかけしました」と頭を下げた。

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