【長編版】冷徹弁護士の甘い執着〜八年前の初恋相手に、もう一度捕らわれる〜
 玄関のドアが閉まる音が重く響く。
 福村が去った後の居間にはひどく冷え切った沈黙だけが残された。麻里が山崎に駆け寄ると、彼は力なく椅子に沈み込んだ。

「……すまない、佐倉さん。わ、私は、罪を……。彼の言う通りだ」

 絞り出すような声に、麻里は息を呑んだ。
 本当にこの人が――。
 守るべき人からの懺悔を聞き、壊された過去と現実が残酷に結びついていく。

 山崎を信じようとした自分の心は、地獄へ突き落とされた父への裏切りだったかもしれない。
 麻里は猛烈な眩暈に襲われた。

「でも、どうして……。山崎さんはそんなことをする人には見えません」
「私に出来ることは、これしかなかった。あ、あのときは……そうするしかなかったんだ!」

 山崎の震える声が、麻里の胸を鋭く刺す。
 父を苦しめた元凶が目の前にいる。けれど山崎を責めることなど、今の麻里にはできなかった。
 おそらく彼もまた、犠牲者の一人なのかもしれない。
 そう思ってしまったから――。

(なにか理由があったはず……。このまま、彼一人に罪を背負わせてはいけない気がする)

 麻里は立ち上がり、急いで玄関へと走った。
 門扉の前で車に乗り込もうとしていた福村の背中に、彼女は全力の声をぶつける。

「福村先生!」

 福村が足を止めて振り返る。
 街灯に照らされたその瞳は、やはり冷徹さを帯びていた。

「先生がどんな証拠をお持ちか知りませんが、山崎さんのこと、もっと調査すべきです。……次にいらっしゃる時までに、私も準備をしておきますから!」

 一介の介護士がこんなことを言っても笑われるだけだろう。しかし福村は鼻で笑うことさえしなかった。
 彼はゆっくりと麻里に近づくと、肩にそっと手を置いた。

「いいだろう。……相変わらずだな、麻里」

 熱い吐息が麻里の耳を掠める。
 かつての呼び名で呼ばれ、麻里の心臓が大きく波打った。


 走り去る車のテールランプを見送りながら、麻里は激しく脈打つ胸を押さえた。

「やっぱり福村先輩だった……」

 山崎さんの罪。
 変わったようで、どこか変わっていない福村先輩。
 そして、耳元に残る甘い残響。

 麻里はまだ知らなかった。
 自分がもう一度、あの人と向き合うことになることを。
 真実と、初恋とともに――。
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