【長編版】冷徹弁護士の甘い執着〜八年前の初恋相手に、もう一度捕らわれる〜

※正樹視点

***

 当事者尋問はこれまでの非公開の手続きとは異なり、傍聴席にはマスコミや大勢の傍聴人がいる。
 そこには張り詰めたような重苦しい緊張感が漂っていた。

 正樹は仕立ての良いスーツに身を包み、原告席に優雅に座っていた。

『正樹さん、今日は絶対に勝ちましょう。山崎さんのためにも、ミツルギ重工のためにも!』

 今朝、家を出るときの麻里が脳裏に思い浮かぶ。
 正樹は表情を崩さないようにしながら、内心笑みを浮かべた。

(ようやくここまできた)

 正樹が被告席に視線を送ると、そこにはふてぶてしい態度で座る木下弁護士と、それを睨んでいるシンセイ開発の現経営陣、そして彼らが雇ったであろう新しい代理人弁護士が険しい表情で並んでいた。

(大人しくこちらの要求を呑めば良かったものを)

 この八年。甘い蜜を吸い続けた彼らにとって、呑めない要求だったことは想像に難くない。しかしプライドを折らない彼らは、あまりに愚かだ。
 正樹は呆れたように短いため息をついた。

「――それでは主尋問を開始してください。原告代理人、どうぞ」

 当事者尋問が開始し、裁判長の厳かな声が法廷に響いた瞬間、正樹は静かに立ち上がる。
 デスクに用意した資料には一切目を落とさず、正樹はまっすぐに被告席の木下を見据えた。

 絶対に逃さない。
 その強い意志をもって正樹はゆっくりと口を開いた。

「シンセイ開発および木下元代理人弁護士は、八年前のミツルギ重工情報流出事件について、一役員による『個人の逸脱』であり、法人としての組織的関与は一切存在しないと主張していますね」
「ええ、その通りです」

 木下は椅子の背もたれに深く寄りかかり、傲慢な態度で言い放った。

「当時の経営陣の一部が勝手に行ったことであり、シンセイ開発はむしろ被害者だ。私個人の資産運用についても、正当なコンサルタント契約に基づく報酬であり、違法性などどこにもない。老いぼれた老人を脅すようなことに金を使うなど……あり得ないことだ」

 予想した通りの面白味のない回答。

(すでに刑事訴訟にて判決が下されていると言うのに)

 あまりにも想像通りの浅はかさに、正樹は口角を上げた。

「なるほど。では、このデータについての説明を求めます」

 正樹は一連の書面を裁判所と被告側に提示した。それは麻里が暴き出した裏資金のルートを正樹が完璧な時系列に落とし込んだ決定的な証拠だった。

< 64 / 75 >

この作品をシェア

pagetop