【長編版】冷徹弁護士の甘い執着〜八年前の初恋相手に、もう一度捕らわれる〜
 控え室でずっと祈るように待っていた麻里は、ゆっくりと法廷へと足を踏み入れた。

 一歩進むごとに、大勢の報道陣や傍聴人の視線が一斉に自分に突き刺さる。
 心臓が痛いほど激しく脈打ち、足がすくみそうになる。麻里は身体の震えを誤魔化すように前を向き歩みを進めた。

 ちらりと原告席を見ると、正樹が静かに視線を送り、ほんの少しだけ頷いた。
 それを見た瞬間、身体の震えが少し収まった。

(大丈夫。毎晩、正樹さんが私の隣で一緒に準備をしてくれたもの。私は山崎さんの真実を伝えるためにここに立つの)

 麻里は証言台の前に立ち、厳かな空気の中で宣誓書を読み上げ、着席した。

「原告代理人、主尋問をどうぞ」

 裁判官に促され正樹が優雅に立ち上がる。

「佐倉麻里さん。あなたが山崎徳三郎氏の担当介護士を務めていたという事実に、間違いはありませんか?」

 その声はいつもと同じ、低くて冷静で少し冷たい声だ。けれど、麻里の緊張を解きほぐすのに十分だった。

「はい。間違いありません」
「では、あなたが担当していた当時の山崎氏の平時の心身状態、および彼が八年前の事件について語った際の具体的な様子について述べてください」

 麻里は深く息を吸い込み、裁判官に向かって真っ直ぐに語り始めた。

「山崎さんは軽度のアルツハイマー型認知症を患っており、自分の記憶や判断力に強い不安を抱えていらっしゃいました。ミツルギ重工に勤めていた当時の話をしようとすると、山崎さんは激しいパニック状態に陥り、うわ言を呟きながら身体を丸めていました。『あの時は、そうするしかなかったんだ』と。山崎さんの状況は訪問介護記録にも記しています。過去のことを思い出した日にはパニックに陥った旨が記録されています」

 麻里が一呼吸おくと、正樹が「その日付は私がミツルギ重工の代理人として山崎さんを訪問した日と一致しています」と付け足した。

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