【長編版】冷徹弁護士の甘い執着〜八年前の初恋相手に、もう一度捕らわれる〜
「佐倉さん。あなたが山崎さんの日記と音声データを見つけたのですか?」
「はい。山崎さんの体調が比較的良い日に『いつか告発するために、何が起きたのかをすべて日記として書き残していた』『だが、今となってはどこにあるのか思い出せない』と発言していました。そこで山崎さんの許可を得て、鍵付きの引き出しを確認したところ、そこに日記とボイスレコーダーがありました」
「内容はすでに提出した通りですね。山崎さんは望んでデータを流出したわけではなく、脅されており、それを記録していた訳です」

 裁判官たちは正樹の言葉に深く頷き、熱心に手元の資料をめくった。
 木下は完全に顔を引きつらせ、シンセイ開発の幹部たちも机に視線を落として絶句している。

「――では被告代理人、反対尋問はありますか」

 裁判長の言葉に、シンセイ開発側が雇った新しい代理人弁護士が鋭い目つきで立ち上がった。
 ここが、正樹と何度もシミュレーションを重ねた本当の正念場だった。

「佐倉麻里さん。山崎氏は認知症を患っていたと言いましたね? ではなぜその彼が『告発のために残した』と言った言葉や、残した記録が信用できるのですか? 本当に彼自身の正常な判断力のもとで書かれたものだと、どうして言い切れるのでしょう?  失礼ながら、山崎氏は記憶が混濁している。原告側の都合の良いように、あなたが誘導して書かせたもの、あるいはあなたが後から捏造したものではないという客観的な証明は、どこにあるのですか!」

 傍聴席からわずかに緊張の息が漏れる。
 証拠そのものの信用性を揺るがし、麻里をペテン師扱いするような意地の悪い攻撃だった。

 しかし麻里の心は全く揺るがない。

(そんな学生みたいな突っ込み方しかしないなんて、追い詰められているわね)

 麻里は軽く息を整えると口を開いた。

「日記の筆跡鑑定書は提出済みです。見ていただければ分かりますが、私と山崎さんの筆跡はまったく異なります。また山崎さんが認知症だと診断されたのは六年前です。八年前は介護士をつけていませんでした。診断書は提出しておりますし、私が山崎さんの担当になった際の登録票にも記載されています。ですから彼の正常な判断のもと書かれたと考えます」
「くっ……!」

 麻里は臆することなく回答すると、相手方弁護士は言葉を詰まらせそのまま着席した。
 原告席の正樹が、満足そうにふっと口角を上げるのが見えた。

「――これで原告側証人、佐倉麻里さんの尋問を終了します」

 麻里は一礼すると法廷を後にした。



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