【長編版】冷徹弁護士の甘い執着〜八年前の初恋相手に、もう一度捕らわれる〜
 刑事訴訟も民事訴訟も完全に結審してから数週間後。
 山崎は再び家に戻り、麻里も訪問介護を再開していた。

(もうすっかりいつもの日常だなー。あの怒涛の日々が嘘みたい)

 不審な車にびくびく怯えたり、連日の報道に一喜一憂していたのが、遠い出来事のように感じられる。

 判決が出た直後、麻里のスマホには父からの連絡が止まらなかった。

『ニュース見たか? ミツルギ重工が!』
『昔の同僚から連絡があった。お前、裁判に出たのか?』
『山崎さんのところで働いてたって?』
『ミツルギの弁護士と知り合いなのか?』

 連騰されたメッセージを見た麻里は、思わず噴き出した。

『そうだよ。黙っててごめんね』

 と返事を返すとすぐに電話が鳴った。
 麻里が「もしもしお父さん?」と声をかけると、電話の向こうからすすり泣く声がずっと聞こえていた。
 男泣きをしていた父は、ずっと麻里に感謝と謝罪をしていた。
 そして、ミツルギ重工から契約社員として戻ってこないかと誘われたと嬉しそうに笑っていた。

 ミツルギ重工は再び技術力に注目が集まり、少しずつ業績を回復しているらしい。ようやく正当な評価を受け始めたということなのだろう。

(本当に良かった)

 八年前に狂った歯車が少しずつ修復されているのかもしれない。
 そんな風に思えるのだった。



 けれど全てがもとに戻ったわけではない。変わったこともある。
 その一つは、麻里が自分のアパートに戻らず、まだ正樹の家で暮らしてるということだ。

「あの狭いアパートに戻る必要があるのか? ここから山崎さんの家に通えばいい」

 もとのアパートに戻ろうとした麻里だったが、正樹がそれを引き留めた。

「でも流石にご迷惑でしょう?」
「何がだ? 緊急時の対応だったとはいえ俺はこの生活を気に入っていたが、麻里は違ったか?」
「そんなの、私だって一緒に暮らせて嬉しかったですけど……」
「じゃあ決まりだな」

 そう言われて、正樹の家で引き続き暮らすことになったのだった。

(相変わらず一緒に寝ているし……)

 麻里は思い出して顔を赤らめる。
 正樹はどんなに帰りが遅くなっても、必ず麻里を腕の中に抱き寄せて眠る。

「おやすみ」
「おさすみなさい正樹さん」

 ただ一緒のベッドで眠るだけ。

(付き合ってるのにな……)

 大切にされていると感じる一方でもどかしくもあった。


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