君といた日々。
出会い

出会い。

1
僕は今、海の底へと沈んでいっている。
落ちる直前に吸った酸素だけが、今の僕を支えていた。

しかし、泳ぐことのできない僕の身体は、重力に抗うこともできず、暗い水の底へと落ちていく。

とうとう我慢の限界が来て、肺に溜めていた空気が、口から出ていくのを感じた。
(誰か…)
「ゴポポ…」
(助けて…)
どうしてこうなったのか、遡ること1時間前。

いつものように、部屋で1人、本を読んでいると、
「シェイド〜?シェイド〜!」
大きな声で自分の名前を呼ばれた。

リビングに向かうと、母さんが、入院しているおばあちゃんに剥いてあげるリンゴを、バスケットに入れながら、
「おばあちゃんのお見舞い!行くわよ?」
と言った。

「は〜い!」
今日は、おばあちゃんのお見舞いに行く日。
病気を患ってから、会ってお話する回数が少なくなってしまった。

だからこそ、おばあちゃんに会えるのが、少しだけ楽しみだった。

「おばあちゃん、元気かな?」
心配でそう言った僕に、母さんは微笑みながら
「きっと元気よ。」と言った。

「最近は、調子いい日が増えてきたって。」
「そうなんだ、良かった!」
「行きましょ。」
「うん!」
(練習した物も見てもらいたいな。)
僕はそう思いながら玄関を出た。

ここから、おばあちゃんのいる病院までの距離はそんなに遠くなく、時々1人でお見舞いに行ったりするが、寝ていることが多い。
今日は起きているといいな。

ふと横を見る。
そこには、いつもと変わりない、海が広がっていた。

僕達の住んでいる街は、「タウン・ネモ。」
ネモフィラの群生地だったことから、この名前がつけられた。春になると、家の庭にネモフィラを植えて、春の訪れを祝う文化がある。

今年の春も、とても綺麗だった。
今は夏の始まり。
潮風に吹かれ、海の景色を眺めながら歩いていると、気づいた時には病院に着いていた。
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