聖女の力のない令嬢の織った布に、冷徹公爵は恋をした。
「これを見ろ」
リディアは受け取って、目を近づけた。
薄い布だった。ごく普通の平織りに見えたが、よく見ると糸の撚り方が独特だった。光の角度によって、布の表面に細かな文様が浮かび上がる。だがその文様は、リディアの知っている織り方では作れないものだった。
「これは」
「百年前の記録に残っていた織り方だ。ユーリホキラス家の、聖女の力を持たない娘が考案したと記されている」
リディアは顔を上げた。
「聖女の力を持たない、娘?」
「あぁ」
アルシェの声は静かだった。
「あなたは自分が初めてだと思っているかもしれないが、そうではない。ユーリホキラス家にも過去に何人か、力を持たずに生まれた者がいた。その中の一人が、聖女の力なしに絹布に特別な性質を持たせる方法を編み出した。だがその技法は途絶えている」