聖女の力のない令嬢の織った布に、冷徹公爵は恋をした。
「聖女の力もないのに公爵家に出入りするなんて、何を考えているのかしら」
クローデットの声は涼しかった。
「ユーリホキラス家も落ちたものね。力のない娘を社交の場に出して、恥ずかしくないのかしら」
笑い声がまた広がった。今度は少し大きく。
リディアは杯を静かにソーサーに戻した。
恥ずかしくないのか。その言葉が、胸の奥の古い場所に刺さった。
十歳の儀式の場で立ち尽くしたときの、あの感覚。周囲の目。神官の諦めた顔。
恥じてはいない、と夜会の夜にアルシェに言った。それは本当だった。今も本当だ。
だが、痛くないわけではなかった。
リディアは視線を窓の外へ逃がした。庭園の緑が、午後の光の中で静かに揺れていた。泣かない、と思った。ここでは絶対に泣かない。
そのとき、部屋の空気が変わった。
リディアには背中でわかった。誰かが立ち上がった気配。静かだが、圧のある気配だ。
「クローデット公爵令嬢」
低い声が、広間に静かに落ちた。