聖女の力のない令嬢の織った布に、冷徹公爵は恋をした。


「ユーリホキラス家のリディア令嬢は、失われた百年前の織り技法を復元しつつある。聖女の力なしに、だ」


 彼の声は低く、静かで、それでいて広間の隅まで届いた。


「それをできる人間が、この場に他に何人いる」


 誰も答えなかった。


「力があれば何でもできると思っているなら、それは慢心だ」


 アルシェはクローデットを見たまま続けた。


「力のない者が何もできないと思っているなら、それは無知だ。令嬢には、どちらがお似合いか」



 完全な沈黙が落ちた。

 クローデットの顔が赤くなり、それから青くなった。扇を握る手が震えていた。

 アルシェはそれ以上何も言わなかった。踵を返し、真っすぐリディアの席へ歩いてきた。

 リディアは動けなかった。

 アルシェはリディアの前に立ち、視線を合わせた。その琥珀色の目が、いつもと違う色をしていた。怒りの名残と、それから何か別のもの。リディアには名前がつけられなかった。



「行くぞ」

「……え」

「工房に。今日はまだ作業が残っているだろう」


 それだけ言って、アルシェは先に歩き出した。


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