向日葵が向くのは、太陽じゃない。
第2章:視線の交差
あの日、夕暮れの渡り廊下で交わした視線。
それ以来、僕と日葵の間の空気は、目に見えないほど微かに、だけど確実に変わり始めていた。
「――でさ、昨日の試合のマジでヤバくて……」
昼休み、友人たちが騒がしく男子トークを繰り広げている。
いつもなら僕も適当に相槌を打っているはずだった。
けれど、今の僕はそれどころじゃない。
……また、だ。
視線を感じて教室の向こう側に目を向けると、自分の席に座る日葵と、ピタリと目が合った。
日葵は友達とお弁当を食べている最中のはずなのに、箸を止めて、じっと僕のことを見つめている。
目が合うと、彼女は慌ててそっぽを向くわけでもなく、ほんの少しだけ引きつったような、切ない笑みを浮かべてから、ゆっくりと視線を外した。
ここ最近、そんなことが何度もあった。
授業中、ふと横を向いたとき。
廊下で すれ違う、一瞬の刹那。
日葵はいつも、僕をよく見ている。
これは一体……なんなんだよ。
勘違いするな、と自分に言い聞かせる。彼女には陽太という彼氏がいるんだ。僕たちはただの幼馴染。
だけど、僕を見る日葵の瞳の奥にある熱を、どうしても無視することができなかった。
僕の心臓は、教室の喧騒をかき消すほどにバクバクと暴れ回っている。
「想、ちょっといい?」
放課後、ついにその瞬間が訪れた。
誰もいなくなった教室で、僕が居残りの日直仕事をこなしていると、日葵が一人で戻ってきたのだ。
「日葵。どうした?」
「ううん、想がまだ残ってるのが見えたから……」
そう言って僕の机の前に立つ日葵。
夕方の教室は静まり返っていて、窓から入る風が、彼女の髪をさらりと揺らす。
「最近さ、日葵、俺のことよく見てるだろ」
我慢できなくなって、僕はストレートに問い詰めてしまった。
日葵は一瞬、ハッとしたように目を見開いたけれど、否定はしなかった。
それどころか、きゅっと唇を噛み締め、さらに強い、熱を帯びた視線を僕にぶつけてくる。
「……気づいてたんだ」
「そりゃ、あんなに見られたら気づくよ。何か言いたいことでもあるのか?」
一歩、日葵が僕に近づく。その距離は、幼馴染の境界線を越えてしまいそうなほどに近い。
「あのね、想……。私、最近……」
日葵の声が、今まで聞いたことがないくらいに甘く、そして切なく震えていた。
彼女の手が、かすかに震えながら僕の制服の袖を掴む。
日葵の瞳には、しっかりと僕の姿だけが映っていた。
陽太じゃなく、僕を。
彼女の中で、僕への気持ちが、制御できないほど強まっているのが痛いほど伝わってくる。
「――おい、日葵。何してんの」
その時、教室の引き戸がガラガラと音を立てて開いた。
低い、低音の、どこか不機嫌そうな声。
入り口に立っていたのは、ポケットに手を突っ込んだ陽太だった。
それ以来、僕と日葵の間の空気は、目に見えないほど微かに、だけど確実に変わり始めていた。
「――でさ、昨日の試合のマジでヤバくて……」
昼休み、友人たちが騒がしく男子トークを繰り広げている。
いつもなら僕も適当に相槌を打っているはずだった。
けれど、今の僕はそれどころじゃない。
……また、だ。
視線を感じて教室の向こう側に目を向けると、自分の席に座る日葵と、ピタリと目が合った。
日葵は友達とお弁当を食べている最中のはずなのに、箸を止めて、じっと僕のことを見つめている。
目が合うと、彼女は慌ててそっぽを向くわけでもなく、ほんの少しだけ引きつったような、切ない笑みを浮かべてから、ゆっくりと視線を外した。
ここ最近、そんなことが何度もあった。
授業中、ふと横を向いたとき。
廊下で すれ違う、一瞬の刹那。
日葵はいつも、僕をよく見ている。
これは一体……なんなんだよ。
勘違いするな、と自分に言い聞かせる。彼女には陽太という彼氏がいるんだ。僕たちはただの幼馴染。
だけど、僕を見る日葵の瞳の奥にある熱を、どうしても無視することができなかった。
僕の心臓は、教室の喧騒をかき消すほどにバクバクと暴れ回っている。
「想、ちょっといい?」
放課後、ついにその瞬間が訪れた。
誰もいなくなった教室で、僕が居残りの日直仕事をこなしていると、日葵が一人で戻ってきたのだ。
「日葵。どうした?」
「ううん、想がまだ残ってるのが見えたから……」
そう言って僕の机の前に立つ日葵。
夕方の教室は静まり返っていて、窓から入る風が、彼女の髪をさらりと揺らす。
「最近さ、日葵、俺のことよく見てるだろ」
我慢できなくなって、僕はストレートに問い詰めてしまった。
日葵は一瞬、ハッとしたように目を見開いたけれど、否定はしなかった。
それどころか、きゅっと唇を噛み締め、さらに強い、熱を帯びた視線を僕にぶつけてくる。
「……気づいてたんだ」
「そりゃ、あんなに見られたら気づくよ。何か言いたいことでもあるのか?」
一歩、日葵が僕に近づく。その距離は、幼馴染の境界線を越えてしまいそうなほどに近い。
「あのね、想……。私、最近……」
日葵の声が、今まで聞いたことがないくらいに甘く、そして切なく震えていた。
彼女の手が、かすかに震えながら僕の制服の袖を掴む。
日葵の瞳には、しっかりと僕の姿だけが映っていた。
陽太じゃなく、僕を。
彼女の中で、僕への気持ちが、制御できないほど強まっているのが痛いほど伝わってくる。
「――おい、日葵。何してんの」
その時、教室の引き戸がガラガラと音を立てて開いた。
低い、低音の、どこか不機嫌そうな声。
入り口に立っていたのは、ポケットに手を突っ込んだ陽太だった。