向日葵が向くのは、太陽じゃない。
第3章:ネオンライトの影で
「――おい、日葵。何してんの」
入り口に立つ陽太の冷ややかな声に、日葵はびくりと肩を揺らし、僕の袖を掴んでいた手をサッと離した。
陽太は僕を鋭い目で一瞥すると、すぐに興味を失ったように日葵の腕を掴む。
「帰るぞ」
「あ……うん。想、またね……」
日葵は何度も後ろを振り返りながら、引きずられるように教室を去っていった。
残された僕は、じっと自分の袖を見つめる。
まだ日葵の手の温もりが残っているような気がした。
あの日葵の切実な目線――彼女の心は、もう陽太の元にはないんじゃないか。そんな期待が、頭を離れなかった。
その予感は、数日後の週末、最悪の形で的中することになる。
土曜日の夜10時。
塾の帰り道、繁華街の駅前を歩いていた僕は、ネオンライトに照らされる雑踏の中に、見覚えのある姿を見つけた。
「日葵……?」
街灯の下、ポツンと一人で座り込んでいる女の子。
駆け寄ると、それは間違いなく日葵だった。
いつもなら丁寧に整えられている髪は少し乱れ、うつむいた肩が小さく震えている。
「想……? なんで、ここに……」
顔を上げた日葵の目には、大粒の涙が溜まっていた。
「どうしたんだよ、こんな時間に。陽太は? 一緒じゃないのか?」
僕が問い詰めると、日葵は堪えきれなくなったように、ポロポロと涙を流し始めた。
「陽太、今日も……他の女の子たちと夜遊び、行って、連絡もくれなくて……。最近ずっとそうなの。困るって言っても、うるさいなって怒られて……私、もう、どうしたらいいか分かんないよ……!」
泣きじゃくる日葵を、僕は衝動的に強く抱きしめていた。
細い肩が、僕の胸の中で激しく震えている。
シトラスの香水の香りに、夜の街の冷たい空気が混ざり合っていた。
他の女と夜遊びばかりして、こんなに健気で可愛い日葵を泣かせるなんて、あいつは何を考えているんだ。
激しい怒りが、フツフツと湧き上がってくる。
と同時に、僕の頭の片隅で、黒く熱い感情が鎌をもたげた。
……いける。
あいつが日葵を大切にしないなら。日葵をこんなに傷つけるだけなら。
いつも隣で指をくわえて見ていた僕の『特等席』から、一歩踏み出して、彼女をあいつから奪い去ってしまってもいいんじゃないか?
「……もう、陽太のことで泣くなよ」
僕は日葵の涙を親指でそっと拭い、彼女の濡れた瞳をまっすぐに見つめた。
「俺じゃ、ダメかな」
街のネオンライトに照らされながら、僕は初めて、自分の独占欲を言葉にしていた。