向日葵が向くのは、太陽じゃない。
最終章:向日葵の恋人
「触るな。日葵は嫌がってる」
僕の言葉に、陽太の顔色が変わる。
いつも余裕ぶっていたはずの彼の瞳に、初めて明確な焦燥と苛立ちが走った。
「お、お前……幼馴染のくせに調子乗ってんじゃねぇよ。日葵、こいつに何か吹き込まれたんだろ? ほら、行くぞ」
「嫌っ……! 離して、陽太!」
陽太が再び強引に日葵の腕を掴もうとした、その時だった。
日葵は悲痛な声をあげながら、自ら陽太の手を強く振り払った。
その拍子に、彼女の目から大粒の涙がこぼれ落ちる。
「もういい加減にして! 陽太はいつもそう! 自分の好きな時にだけ私を縛り付けて、他の女の子たちと夜遊びばっかりして……! 私がどんなに寂しくて、困ってたか、陽太は一度でも考えてくれた!?」
「それは……」
初めて見る日葵の激しい拒絶に、陽太が息を呑む。
「……遅いんだよ、陽太」
僕は日葵の肩をそっと抱き寄せ、陽太をまっすぐに見据えた。
「お前が日葵を放置して、傷つけてる間、俺はずっと日葵を見てた。日葵が泣いてる時、そばにいたのはお前じゃない、俺だ。もう日葵をお前みたいな奴に渡さない」
「想……」
僕の背中で、日葵がコクンと小さく頷く。その強い肯定が、何よりも僕に勇気をくれた。
陽太は拳を固く握り締め、信じられないものを見るような目で僕たちを見つめていた。
だけど、日葵の瞳に自分への未練が1ミリも残っていないことを悟ったのだろう。
やがて、苦々しく吐き捨てるように背を向けた。
「……勝手にしろよ」
それが、陽太との最後の決別だった。
数日後の放課後。
あの日と同じ、オレンジ色の夕暮れが教室を染めている。
すっかり静まり返った空間で、僕と日葵は二人きりで並んで座っていた。
「想、あのね」
日葵が僕の顔をじっと見つめてくる。
最近よく合っていたあの切ない視線じゃない。
今は、どこか照れくさそうで、だけど確かな愛おしさがこもった、甘い視線。
「私、ずっと陽太が好きなんだって自分に言い聞かせてた。でもね、陽太に傷つけられるたびに、頭に浮かぶのはいつも想の顔だったの。……私が本当に見てほしかったのは、想だったんだよ」
日葵の手が、そっと僕の手に重なる。
「想が、私のこと奪ってくれて嬉しかった。……ううん。私の方が、想に奪われたかったんだと思う」
その言葉を聞いた瞬間、僕の胸の奥にずっとあった切ない痛みは、嘘みたいに消え去っていった。
もう、誰かの後ろから見つめるだけの『特等席』じゃない。
「日葵」
僕は重なった手をぎゅっと握り締め、彼女のひたむきな笑顔を見つめ返した。
「もう絶対に離さない。俺の特等席は、お前の隣だけだから」
夕日に照らされた日葵の顔が、これまでで一番まぶしく、幸せそうに綻んだ。
届かなかったはずの向日葵は今、ようやく僕だけの太陽に向かって、まっすぐに咲き誇ったのだった。
(完)
僕の言葉に、陽太の顔色が変わる。
いつも余裕ぶっていたはずの彼の瞳に、初めて明確な焦燥と苛立ちが走った。
「お、お前……幼馴染のくせに調子乗ってんじゃねぇよ。日葵、こいつに何か吹き込まれたんだろ? ほら、行くぞ」
「嫌っ……! 離して、陽太!」
陽太が再び強引に日葵の腕を掴もうとした、その時だった。
日葵は悲痛な声をあげながら、自ら陽太の手を強く振り払った。
その拍子に、彼女の目から大粒の涙がこぼれ落ちる。
「もういい加減にして! 陽太はいつもそう! 自分の好きな時にだけ私を縛り付けて、他の女の子たちと夜遊びばっかりして……! 私がどんなに寂しくて、困ってたか、陽太は一度でも考えてくれた!?」
「それは……」
初めて見る日葵の激しい拒絶に、陽太が息を呑む。
「……遅いんだよ、陽太」
僕は日葵の肩をそっと抱き寄せ、陽太をまっすぐに見据えた。
「お前が日葵を放置して、傷つけてる間、俺はずっと日葵を見てた。日葵が泣いてる時、そばにいたのはお前じゃない、俺だ。もう日葵をお前みたいな奴に渡さない」
「想……」
僕の背中で、日葵がコクンと小さく頷く。その強い肯定が、何よりも僕に勇気をくれた。
陽太は拳を固く握り締め、信じられないものを見るような目で僕たちを見つめていた。
だけど、日葵の瞳に自分への未練が1ミリも残っていないことを悟ったのだろう。
やがて、苦々しく吐き捨てるように背を向けた。
「……勝手にしろよ」
それが、陽太との最後の決別だった。
数日後の放課後。
あの日と同じ、オレンジ色の夕暮れが教室を染めている。
すっかり静まり返った空間で、僕と日葵は二人きりで並んで座っていた。
「想、あのね」
日葵が僕の顔をじっと見つめてくる。
最近よく合っていたあの切ない視線じゃない。
今は、どこか照れくさそうで、だけど確かな愛おしさがこもった、甘い視線。
「私、ずっと陽太が好きなんだって自分に言い聞かせてた。でもね、陽太に傷つけられるたびに、頭に浮かぶのはいつも想の顔だったの。……私が本当に見てほしかったのは、想だったんだよ」
日葵の手が、そっと僕の手に重なる。
「想が、私のこと奪ってくれて嬉しかった。……ううん。私の方が、想に奪われたかったんだと思う」
その言葉を聞いた瞬間、僕の胸の奥にずっとあった切ない痛みは、嘘みたいに消え去っていった。
もう、誰かの後ろから見つめるだけの『特等席』じゃない。
「日葵」
僕は重なった手をぎゅっと握り締め、彼女のひたむきな笑顔を見つめ返した。
「もう絶対に離さない。俺の特等席は、お前の隣だけだから」
夕日に照らされた日葵の顔が、これまでで一番まぶしく、幸せそうに綻んだ。
届かなかったはずの向日葵は今、ようやく僕だけの太陽に向かって、まっすぐに咲き誇ったのだった。
(完)