眼鏡フェチがバレたら、税理士さんに甘く逃げ道を塞がれました

 瀬戸さんの隣を歩きながら、私は出会った頃のことを思い出していた。
 初めて会ったのは5年前。よくある言い回しを使うと、まさに『ふたりの出会いは最悪だった――』である。尤も、最悪だと感じていたのは彼の方だろう。

「……たまにいるんです。確定申告の期限最終日の夜になってもまだ申告ソフトのアカウントすら作っていない方」

 これが彼の第一声である。当時の私は小さくなりながら画面越しに頭を下げた。

「すみません……締め切りに追われてたらいつの間にか夜になってました……」
「言い訳は結構です。とにかく『きさらぎの青色申告オンライン』と検索!」
「はいっ」

 独立初年度、確定申告の大変さを風の噂で聞いていた私は「やらなきゃやらなきゃ」と思いながらカレンダーを眺めてはいたものの、「それよりまず来週頭の締め切りを乗り越えなきゃ」と現実逃避を繰り返してとうとう3月に突入。
 確定申告の“か”の字も知らない私は、クリエイター登録しているサイトの税理士紹介システムに泣きついた。「この時期に空いてる人なんていませんよ……一応聞いてみますけど」と担当者に言われながら、なんとか時間をもらえたのが瀬戸さんだった。

 画面共有をしながら手取り足取り……ならぬマウス取りキーボード取りしてもらったのも、今となってはいい思い出だ。彼からしたら最悪の思い出かもしれないけど。
 後日、瀬戸さんの税理士事務所にお礼に行ったのをきっかけに打ち解け、翌年からもお願いすることに決めた。

(あの頃は、こんな風に毎月会ってランチまでするようになるとは思ってなかったなぁ)

「着きましたよ」

 声をかけられて我に返った私は、滑らかに開く自動ドアを彼に続いてくぐった。
< 3 / 6 >

この作品をシェア

pagetop