ライオンのサーカス
坂道を抜けてモネの家へ着くと、モネは、鍵を回して家のドアを開けた。
向こうに見えるのは明りの付いていないリビング。
その奥に一人暮らしのモネの寝室と、小さな書斎があった。
カナトがパチリと明りを付けると、部屋の中が一気に明るくなった。
「紅茶淹れるね」
モネが青いタイルのキッチンへ向かおうとすると、鬱陶しげにカナトが手で遮った。
「要らない。そういうのは後。とりあえず、先に杖。」
「すぐ見つかるよ。」
「当然。じゃなかったらこう。ほら、さっさと探すぞ。」
カナトの乱暴なジェスチャーを横目に見ながら、モネは、引き出しを開けた。
小物やお土産の入っている全部の引き出しを開けたが、杖はどこにも見当たらなかった。
「あった?」
「ない」
カナトに答えながら、モネは棚の上や下を見た。
小物棚も見たし、昨日の本をしまった本棚も調べたし、なんならと食器棚の中やゴミ箱の中も見た。
「ったく、杖をなくすバカなんて聞いた事ねーよ」
ぶつぶつ言いながらカナトは部屋の机をずらして裏を見た。
「杖は魔法使いの必需品。杖がなきゃ魔法はかからない。ほんっと。勘弁してよ。」
「大事な物入れも見たけどなかった」
「どこ置いたか覚えてねーの?。昨日眠る前に使ったとか。その前の日思い出せよ。」
「前の日は……前の日も同じ本読んでて、あ」
「思い出した?」
カナトが振り返ったが、モネは首を振った。
「ルルの帽子のお話、駅前の図書館の本で、返却期日明日だって」
「要らない。そんな情報。杖なくしといて帽子の話なんて、ほんっと呑気だねえ、お前は」
「返さないと怒られる」
「ちゃんと返しに行けよ」
そう呟いたカナトは今度は棚を動かして下を見ている。
「大体、杖なくすなんて気が緩んでる証拠。モネは普段からなってないんだよ。」
言いながらカナトはモネを睨んだ。
「魔法使いのプライドを、どうして疎かにするかな。杖師に一生もん作って貰って置いて、なくすなんて言語道断。僕はすっごくがっかりした。」
あちこち動かして杖を探しながら、カナトはぶつぶつ文句を言う。
「……」
「杖って全部だよ。魔法使いの全てだ。そんな馬鹿とは思わなかった。」
「……だって」
「もし今日中に見つけなかったらゲンコツ。一発痛いの食うからな。言っとくけど脅しじゃないから。こら、ぼーっとしてないで早く探せよ。あぁイライラする。」
カナトが書斎の棚の引き出しを開けた所で、チャイムを鳴らしてシロウが入ってきた。
「どうして僕を置いていくんだよ?」
キッチンに入って不機嫌な顔でシロウが聞いた。
「納得行かない。いくら先生に呼ばれてたからって、待っててくれても良さそうなものなのに。」
「ライバルは余計。邪魔だ。」
カナトが書斎から出様にきっぱり言い放った。
「今日も来なくて良かったのに。今杖探してるとこ。」
「引き出しの中、あった?。モネ。」
シロウが優しく聞いたがモネは首を振った。
「なかったんだ。じゃあどこにあるんだろう。」
「今探し中。僕が見つける。お前も探せよ。」
モネとカナトとシロウは家の中の大捜索を始めた。