私の好きな、彼のにおい~雨に降られたら彼の秘密を知りました~
軽い調子で彼が答える。
その「ふぅん」は軽すぎて、「俺は持ってるぞ」の優越感なのか「俺も持ってないんだよな」という共感なのか判断がつかない。

「俺んち、ここから近いんだけどさ」

「うん?」

なにを言いたいのかわからなくて、 彼の顔を見上げていた。

「寄るなら傘貸す。
その代わりタクシー代、半分出して」

にかっと白い歯を覗かせ、彼がいたずらっぽく笑う。
そうか、ヤツも傘を持っていなかったのか。

「了解。
こっちも傘貸してくれるの、助かるし」

私の家はタクシーだと梅子様が飛んでいきかねないし、最寄り駅からもそこそこ歩く。
傘を貸してくれるというのはありがたかった。

浅倉くんがタクシーを呼んでくれ、会社の前から乗って十分足らず。

「ちかっ!」

「だから近いって言っただろ」

苦笑いの彼と一緒にタクシーを降りた瞬間。

「……え?」

だっぱー! と誰か上階の人がバケツをひっくり返したんじゃないかという勢いで、頭上から雨が落ちてきた。

「信じられない!」

大慌てでエントランスまでの五歩を走る。
そのあいだに下着までびっしょりになっていた。

「あー……」

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