それは面倒で。 でも愛しくて。
蜜葉のことだろうか。もう何も聞きたくない、と思わず耳を両手で塞ごうとして止められた。店員さんがあたしの手首をやんわりと掴み微笑む。
「いつも、可愛いなって、思いながら見てました。ふわふわの髪とか、カフェオレとチョコレートドーナツしか食べないとことか、服装も女の子らしくていいなって」
「……はあ」
「でもたまには、おすすめのケーキも食べてみてくださいね」
「……はあ」
「ごゆっくり」
店員さんが行ってしまうと、あたしは少し乱雑な動作でカフェオレに砂糖を入れてスプーンでかき混ぜる。
落ち込んだあたしを慰めるためにいろいろ褒めてくれた店員さんの優しさが、今のあたしには煩わしい。
教えてくれてありがとう、という気持ちにならない。余計なことを、と思ってしまった。だって、知りたくなかった。
蜜葉の、そんな事情なんて。
あたしは気を紛らわすためにカフェオレを飲み、チョコレートドーナツに齧り付いた。
蜜葉が部屋に来たのは夕方だった。
隣町の焼き鳥屋さんで焼き鳥と唐揚げを買ってきてくれて、あたしは笑ってそれを受け取りご飯だけ炊こうと米を研ぐ。みそ汁も作ろうかな、と冷蔵庫を開けると、豆腐があったので長ネギと共にみそ汁にした。炊飯器は早炊きにしたので三十分で炊ける。あたしは蜜葉を振り返る。
コタツでパソコンを開き仕事をしているのか、難しい顔をしている蜜葉に声を掛けずにただじっと見つめた。
二股、なのか。それともあたしはまた都合のいいようにされているのか。本命なのか浮気なのか。
ぐるぐる考え思考が悪い方へと向かっていく。
じゅわっと沸騰した味噌汁が溢れ出して慌てて火を止めた。コンロが酷いことになっている。味噌汁の鍋を鍋敷きに移動させ、布巾を濡らして丁寧に拭き取る。熱が冷めるのを待っていたら汚れがこびりついてしまって面倒だ。さっさと片付けよう。二度三度と布巾を洗いコンロを拭き終わると、背後に気配がして振り向いた。
すぐそばに蜜葉がひっそりと立っていて口から心臓が飛び出そうになった。
「びっ、くりした。瞬間移動?」
「火傷してない?」
「し、してない」
ばくばくと心臓が鳴る。蜜葉はあたしの手から布巾を取るとキッチンに置き、腰に腕を回して片手で頬を包み、ぱくりと喰むようなキスをした。角度を変えて何度もぱくぱくとキスをして、あたしはきゅっ、と目を瞑って蜜葉のキスを受け入れる。
そのうちピーッ、とご飯が炊けた音がして、あたしは目を開け蜜葉を見上げた。
じっと見てくるその目の奥は、なにを考えているのかわからない。蜜葉はにこ、と笑う。
「ご飯炊けたね。装うね」
「あ、ありがと」
「焼き鳥温めるね」
「あ、うん」
「味噌汁足りる?」
あたしは鍋敷きの上の鍋の蓋を開ける。
沸騰して溢れてしまった分減ってしまったが、二人分ぴったりありそうだ。
「大丈夫」
「そう」
それから無言で夕食の用意をして、コタツに並べて頂きます、と手を合わせた。
鶏皮を齧る蜜葉を見ながら、さっきのキスは何だったのだろうと考える。ただしたかっただけかな。恋人だもんね。したいときにするわよね。……恋人なのかな。違うかも。ああ、もやもやする。でも、でも。聞けない。聞いて蜜葉が嫌な顔をしたらどうしよう。恋人じゃないの?と聞いて煩わしげにされたら立ち直れない。そんなことを聞いて面倒だと思われ離れていってしまうかも、と思うと胸が苦しい。こうしてご飯を一緒に食べれなくなるなんて嫌だし、蜜葉の柔らかい微笑みも意地悪なとこも、氷みたいに冷たく笑うとこも、あたしにとってはなくしたくない、かけがえのないものだ。
元カレのときには思わなかった。都合のいい女なんて考えられない。でも、蜜葉の都合のいい女になら、なってもいい。
あたしはレバーを齧る。甘いタレがじわりと口の中に広がる。ぱさついてなくてしっとりしていて美味しい。
つくねに手を伸ばそうとして、視線を感じて目線を上げた。
蜜葉が感情の読めない冷たい目をしてあたしを見てた。ぞくりと背筋が震える。
「な、に。どうしたの」
「こっちの台詞。さっきから何考えてるの。僕以外のこと考えて憂いてるの我慢できなかったからキスしたのに、まだ足りなかった?」
蜜葉があたしの隣に移動し、顔を近づけてきたので思い切り顔を背けた。いまこの状態で、キスしたくない。
けれど蜜葉はそのままあたしを押し倒し、こつんとおでこをくっつける。
「嫌なの?」
「い、嫌じゃないけど」
「ないけど?」
「レバのタレが、口の中に残ってる」
「気にしないけど」
「す、するわよ。キスするなら歯磨きした、んんっ」
まだ抵抗している途中なのに口を塞がれて、タレを舐め取るようにキスをされた。
長いキスに息が上がり、蜜葉の着ている服をぎゅうっと握る。やっと解放されて目を開ける。蜜葉が意地悪そうににゅっと口の端を上げた。
「まだする?」
「も、もうしない」
「足りた?」
「足りた!」
真っ赤になって叫ぶと、蜜葉は満足そうに微笑み起き上がり、焼き鳥の続きを食べ始めた。
あたしはのろのろと起き上がり、キスの余韻に浸りなが酸欠でくらくらする頭を手で抑える。
こんなに執着されているのに、他に女がいるなんて考えられない。やっぱり蜜葉に二股なんてできないわよ。隣町に彼女がいるなんて、あの店員さんの誤解だわ。
あたしはさっき食べようとしたつくねに手を伸ばし、がぶりと齧った。
「いつも、可愛いなって、思いながら見てました。ふわふわの髪とか、カフェオレとチョコレートドーナツしか食べないとことか、服装も女の子らしくていいなって」
「……はあ」
「でもたまには、おすすめのケーキも食べてみてくださいね」
「……はあ」
「ごゆっくり」
店員さんが行ってしまうと、あたしは少し乱雑な動作でカフェオレに砂糖を入れてスプーンでかき混ぜる。
落ち込んだあたしを慰めるためにいろいろ褒めてくれた店員さんの優しさが、今のあたしには煩わしい。
教えてくれてありがとう、という気持ちにならない。余計なことを、と思ってしまった。だって、知りたくなかった。
蜜葉の、そんな事情なんて。
あたしは気を紛らわすためにカフェオレを飲み、チョコレートドーナツに齧り付いた。
蜜葉が部屋に来たのは夕方だった。
隣町の焼き鳥屋さんで焼き鳥と唐揚げを買ってきてくれて、あたしは笑ってそれを受け取りご飯だけ炊こうと米を研ぐ。みそ汁も作ろうかな、と冷蔵庫を開けると、豆腐があったので長ネギと共にみそ汁にした。炊飯器は早炊きにしたので三十分で炊ける。あたしは蜜葉を振り返る。
コタツでパソコンを開き仕事をしているのか、難しい顔をしている蜜葉に声を掛けずにただじっと見つめた。
二股、なのか。それともあたしはまた都合のいいようにされているのか。本命なのか浮気なのか。
ぐるぐる考え思考が悪い方へと向かっていく。
じゅわっと沸騰した味噌汁が溢れ出して慌てて火を止めた。コンロが酷いことになっている。味噌汁の鍋を鍋敷きに移動させ、布巾を濡らして丁寧に拭き取る。熱が冷めるのを待っていたら汚れがこびりついてしまって面倒だ。さっさと片付けよう。二度三度と布巾を洗いコンロを拭き終わると、背後に気配がして振り向いた。
すぐそばに蜜葉がひっそりと立っていて口から心臓が飛び出そうになった。
「びっ、くりした。瞬間移動?」
「火傷してない?」
「し、してない」
ばくばくと心臓が鳴る。蜜葉はあたしの手から布巾を取るとキッチンに置き、腰に腕を回して片手で頬を包み、ぱくりと喰むようなキスをした。角度を変えて何度もぱくぱくとキスをして、あたしはきゅっ、と目を瞑って蜜葉のキスを受け入れる。
そのうちピーッ、とご飯が炊けた音がして、あたしは目を開け蜜葉を見上げた。
じっと見てくるその目の奥は、なにを考えているのかわからない。蜜葉はにこ、と笑う。
「ご飯炊けたね。装うね」
「あ、ありがと」
「焼き鳥温めるね」
「あ、うん」
「味噌汁足りる?」
あたしは鍋敷きの上の鍋の蓋を開ける。
沸騰して溢れてしまった分減ってしまったが、二人分ぴったりありそうだ。
「大丈夫」
「そう」
それから無言で夕食の用意をして、コタツに並べて頂きます、と手を合わせた。
鶏皮を齧る蜜葉を見ながら、さっきのキスは何だったのだろうと考える。ただしたかっただけかな。恋人だもんね。したいときにするわよね。……恋人なのかな。違うかも。ああ、もやもやする。でも、でも。聞けない。聞いて蜜葉が嫌な顔をしたらどうしよう。恋人じゃないの?と聞いて煩わしげにされたら立ち直れない。そんなことを聞いて面倒だと思われ離れていってしまうかも、と思うと胸が苦しい。こうしてご飯を一緒に食べれなくなるなんて嫌だし、蜜葉の柔らかい微笑みも意地悪なとこも、氷みたいに冷たく笑うとこも、あたしにとってはなくしたくない、かけがえのないものだ。
元カレのときには思わなかった。都合のいい女なんて考えられない。でも、蜜葉の都合のいい女になら、なってもいい。
あたしはレバーを齧る。甘いタレがじわりと口の中に広がる。ぱさついてなくてしっとりしていて美味しい。
つくねに手を伸ばそうとして、視線を感じて目線を上げた。
蜜葉が感情の読めない冷たい目をしてあたしを見てた。ぞくりと背筋が震える。
「な、に。どうしたの」
「こっちの台詞。さっきから何考えてるの。僕以外のこと考えて憂いてるの我慢できなかったからキスしたのに、まだ足りなかった?」
蜜葉があたしの隣に移動し、顔を近づけてきたので思い切り顔を背けた。いまこの状態で、キスしたくない。
けれど蜜葉はそのままあたしを押し倒し、こつんとおでこをくっつける。
「嫌なの?」
「い、嫌じゃないけど」
「ないけど?」
「レバのタレが、口の中に残ってる」
「気にしないけど」
「す、するわよ。キスするなら歯磨きした、んんっ」
まだ抵抗している途中なのに口を塞がれて、タレを舐め取るようにキスをされた。
長いキスに息が上がり、蜜葉の着ている服をぎゅうっと握る。やっと解放されて目を開ける。蜜葉が意地悪そうににゅっと口の端を上げた。
「まだする?」
「も、もうしない」
「足りた?」
「足りた!」
真っ赤になって叫ぶと、蜜葉は満足そうに微笑み起き上がり、焼き鳥の続きを食べ始めた。
あたしはのろのろと起き上がり、キスの余韻に浸りなが酸欠でくらくらする頭を手で抑える。
こんなに執着されているのに、他に女がいるなんて考えられない。やっぱり蜜葉に二股なんてできないわよ。隣町に彼女がいるなんて、あの店員さんの誤解だわ。
あたしはさっき食べようとしたつくねに手を伸ばし、がぶりと齧った。