それは面倒で。 でも愛しくて。
上書き
カーテンの隙間から朝日が差し込み、あたしの瞼の上を直撃する。春の日差しは優しいのに、どうして朝だけ凶悪になるのか不思議でならない。早く起きろ、朝だぞ、と襲いかかってくる。
まだ眠いし、体はだるいし、今日は休みだからまだ寝ていたい。布団を頭まで引っ張り上げたとき、がちゃん、と音がして飛び起きた。
誰かいる。布団を跳ね除け音のしたキッチンに視線を向けると、癖っ毛の眼鏡の男性が盛大に卵を床に落としていて呆然とした。男性が振り向き、布団を掴んで身動きしないあたしと目が合うと、ぎこちなく笑い「おはよ」と言ってしゃがみ込んだ。
あたしはだるい体に鞭打って、のろのろと近づき卵を片付ける蜜葉の隣にしゃがみ込む。蜜葉が気まずそうに口を開く。
「もったいなかったね。ごめん。普段料理なんてしないから……慣れないことはするもんじゃないね」
あたしはキッチンペーパーで床の卵を拭き取りポリ袋に入れる。蜜葉が最後に水拭きして、朝の掃除は終わった。
「朝ご飯作ってくれようとしたの?」
「こーゆー日の朝って彼女が寝てる隙に彼氏が朝ごはん用意するんじゃないの?」
「そうなの?」
「違うの?」
「さあ。わからないけど……」
あたしは駄目になった卵の入ったポリ袋をゴミ箱に捨てると、冷蔵庫を開け残っていた卵を取り出した。消費期限ギリギリのソーセージを見つけ、それも出す。フライパンに油をひき温め、ソーセージに熱を通す。その間に卵を溶いて砂糖と牛乳を入れかき混ぜて、ソーセージをフライパンに全部投入し軽く火を通しかき混ぜる。戸棚から皿を取り出し二人分、適当に取り分ける。
スクランブルエッグにソーセージ。コンビニで買い置きしている千切りにされたキャベツの袋を開けて適当な量を盛り付ける。レモンのドレッシングをかけ、あとは食パンを焼いてコーヒーを淹れれば立派な朝ご飯だ。ヤカンでお湯を沸かし、トースターに食パンを入れた。
視線を感じてくるっと振り返ると、蜜葉が片手で眼鏡を押さえてる。あたしは蜜葉を見上げ、眼鏡を押さえる手をそっと退けた。
「どうしたの?」
「……起き抜けの彼女が、あられもない格好で朝ご飯作ってるのいいなって思っただけ」
起き抜け。はっとした。
ふわふわの髪は朝は爆発していてぼさぼさだ。それに大きめのTシャツ一枚羽織り、下はパンツ以外何も履いてなかった。あたしは両手でTシャツをぐいーっと下まで引っ張り、片手で髪を手櫛する。
「やだ。恥ずかしい。ずっと見てたの?」
「眼福だった」
ヤカンが鳴る。あたしは火を止め、トースターも音を立てたので食パンを取り出し蜜葉に押し付ける。
「並べて。スウェット履くから」
「そう?そのままでも可愛いのに」
「か、かわ……だめ。顔も洗ってくるから」
あたしはスウェットを履き洗面所に走る。鏡を見て絶句する。髪が、酷い。爆風が吹いたあとの様子みたいだ。
蜜葉と朝まで過ごしたのはこれが初めてだ。蜜葉はうちに来ても、いつも日付を跨がず帰っていったからだ。次の日の仕事に影響が出るといけないから、とあたしの体を気づかいそう言った。朝までいると無理させちゃうから、と。今日はあたしは休みで昨日は一悶着あったから、昨夜はいつもより濃厚な夜だった。おかげさまで体はだるくて頭もぼうっとするし起き抜けを見られとても恥ずかしい思いをしたが、朝に蜜葉といられることはとても、嬉しい。
とりあえず顔を洗い、髪を梳かしてバレッタで止め、軽く化粧をしようとしたところで蜜葉が後ろから抱きしめてきた。これから塗ろうとしたファンデーションを取り上げられ、洗面所に戻されると鏡越しににこりと笑顔を向けられる。
「充分可愛い。朝ご飯冷めちゃうからそろそろ食べよ」