それは面倒で。 でも愛しくて。

女の影


 蜜葉の隣に知らない女。
 その光景を見た途端、ぱたぱたと涙が溢れ出した。
 蜜葉に寄り添う気の強そうな美人に、あの人が蜜葉の本命なのだろうかと思うと我慢できなかった。一歩二歩後退りし、背を向けその場をあとにした。

 ❐❐❐ 

 三月の繁忙期が終わったと同時に、毎週水曜の夜、蜜葉は木ノ葉にきてオムライスを食べ、仕事をし、フルーツたっぷりのケーキとコーヒーを飲みながらあたしの仕事が終わるのを待つ。そして仕事上がり、蜜葉はあたしのうちに来て泊まっていく。木曜は部屋で一日中ごろごろしていたり、買い物に行ったり、見たい映画があれば見に行ったり。
 蜜葉とのお付き合いは順調だった。そう思えた。
 あたしさえ、我慢すれば。

 定期的に、蜜葉は女物の香水の匂いを纏い、あたしの部屋にやって来た。
 香水の匂いは強くなく、近づかないとわからないほどささやかで、あたしはその香水の君が蜜葉にそうとうべったりくっついているのではないかと考えると、心臓に穴があく思いだった。
 蜜葉にそれとなく、探りを入れたことがある。
 蜜葉ってたまに甘い匂いするわよね、やっぱり甘党だからかな、でも香水っぽい匂いもするのよね、なんてコタツで並びながらコーヒーを飲む。蜜葉はそう?甘い?と自分の手の甲の匂いを嗅いで、自分じゃわからないなと言った。その様子に後ろめたさや隠し事がある雰囲気は読み取れず、あたしは思い悩むことになる。
 蜜葉に心当たりがないのなら、香水の君の一方通行なのか。それとも、アプローチされているのに全く気づいていないとか?蜜葉って言い寄られてもあんまり気づかなさそうだしな……。 

 蜜葉に他に恋人がいたとしてもそれでいい。そう思っているのにやっぱり独占欲というものは湧き上がってきてしまう。好きになった人を自分だけのものにしたいと欲張りになるのは、恋をしている証拠だ。
 あたしは飲んでいたコーヒーを置いて、まだ匂いが気になり腕に鼻を近づけている蜜葉の隙だらけの首筋にキスをする。軽く噛んで離すと、蜜葉が真っ赤になって振り向いた。
「どうしたの。積極的、だね」
「うん。噛みたかったから」
 マーキングしとこうと思って。言葉には出さず胸のうちに秘める。蜜葉があたしの項に触れ、体勢を変えてキスをする。そのうち押し倒されて、蜜葉から余裕がなくなるのを見て、今日は一日中うちでごろごろすることになりそうだと酸欠気味になりながら思った。
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