それは面倒で。 でも愛しくて。
再会とは、いつするのかわからない。心の準備はしておいたほうがいい。
チリン、と木ノ葉のドア鈴が鳴る。、ランチタイム に入ってきたのは香水の君の池田さんだった。
「いらっしゃいませ。あ」
「えー……」
相変わらずの美女具合で、さらさらの茶髪を靡かせて入ってきたが、あたしの顔を見て立ち止まった。あたしもつられて固まってしまったが、すぐに我に返り営業スマイルを貼り付けた。
「どうぞ、こちらへ」
「あー、……はい」
あたしが声をかけると、池田さんは迷いながらもあたしの案内したカウンター席にすとんと座った。お冷やを用意して、ことん、と置く。
「オムライスとナポリタンが、人気メニューになります。今はランチタイムなので、お好きなドリンクとサラダも付きます」
「じゃあ、オムライスのセットお願いするわ。あと、オレンジジュースは食前に」
「はい。お待ちください」
注文を取り、厨房の店主に伝えると、はいよーと返事が返ってくる。
またドア鈴が鳴り、次から次へとお客さんがやってくる。忙しなく動き、お冷やを運び注文を取る。オムライスが出来上がり、オレンジジュースを飲んでいた池田さんのところへ運ぶ。
「お待たせいたしました」
「ありがとう。忙しいわね」
「ええ。この時間帯は。こちら伝票です。ごゆっくり」
何か言いたそうにしていた池田さんは、何も言わずにオムライスを食べ始めた。
ランチタイム終了の二時を回ると、客足は減り一段落ついた頃。それを見計らったのか、池田さんが手を上げてあたしを呼んだ。
「はい。お待たせしました」
「苺のタルトとコーヒーを。あと、……ちょっと、ここ座って」
池田さんがカウンター席の隣の椅子を引いて座るように促してきた。あたしは厨房を振り向き店主にお伺いを立てる。店主は腕組をし、重く頷いた。なぜだかすべて見透かされているような気がして落ち着かない。あたしはおずおずと隣の席に腰を下ろした。
「私、蜜葉さんがタイプだったのよね。だから彼女がいても気持ちが抑えられなかった。ほら、私美人でしょ?ちょっと押せば乗り換えてくるって自信があったのよ」
「はあ。そうですか」
「そうなのよ。でも押しても押しても暖簾に腕押し、全く振り向いてもらえなくてやきもきしてた。で、彼女はきっと私より美人でしっかりした人なんだろうなって思ってたのよ」
「……そうですか」
「ところが、あなた、でしょ。まあ可愛いけど、しっかりしてなくもないけどふわふわしてて頼りないっていうか、そのへんにいるちょっと可愛いだけの女子っていうか」
「可愛いと言いながらけなしてますよね」
「蜜葉さんも頼りな気だから、あなたは蜜葉さんには合わないと思ったの。蜜葉さんには私みたいな美人でしっかりした女のほうが合ってる。そう思わない?でも、蜜葉さんはあなたがいいみたい。あの日コーヒーショップから帰るあなたがあの店員といちゃついてるの見てブチ切れて追いかけてさ。戻ってきたと思ったら、今のプログラムでご満足いただけないようでしたら提携している他の企業をご紹介しますなんて言われて焦ったわ。私、蜜葉さんに会いたくてなんども修正お願いしてただけだったから、蜜葉さんに断られると正直こっちが危うかった。でも蜜葉さんだって取引先が減ったら営業成績も減るのに……余程あなたのこと気にしてたのね。私がサインしたらすぐ帰っちゃったわよ」
「……仕事の、邪魔してすいません」
「本当よ。と、言いたいとこだけど私も仕事にかこつけて色恋沙汰持ち込んだことは悪かったと思ってる。蜜葉さんがあなたを大切に想っていて見せつけられるのはきついし、担当も変わったからもう蜜葉さんとは会わないわよ。だから安心して。泣かなくて大丈夫よ」
「泣いてませんけど」
「そーおー?泣き虫って聞いてるけど」
「そんなこと……」
ない、とは言い切れずに考え込んでしまうと、様子を見ていた店主がんんっと咳払いして我に返る。戻ってこいという合図だ。厨房のカウンターにはすでに苺のタルトとコーヒーが用意されている。
「苺のタルトとコーヒー、お持ちします」
「ねえ。オムライス美味しかった。蜜葉さんに手を出した嫌な女なのに、丁寧な接客ありがとう」
あたしは会釈し、厨房に戻る。店主が無言で頷き苺のタルトとコーヒーを渡してきたので、池田さんのところに運ぶ。
「ナポリタンもおすすめなんです。またいらしてください。……嫌じゃなければ」
池田さんは片手で頬杖を付いて「じゃあ、失恋の痛手が癒えたらまた来るわ」と意地悪そうな顔をして笑った。