それは面倒で。 でも愛しくて。
帰り道。突如降った雨に当たり、あたしはずぶ濡れでうちに着いた。部屋の中に入り、すぐにお風呂の用意をしようと蛇口を捻ったが、お湯が出ない。な、なんで。戸惑っていると、ピンポン、とチャイムが鳴りドアを開けると大家さんがいて、水道管の工事で明日まで使えない、急な話で申し訳ないと頭を下げられた。明日の朝には終わるから、今日をなんとか凌いでほしいと懇願され、あたしは近くの銭湯に行くことにした。
ずぶ濡れのままじゃ風邪を引く。現に少し寒気がする。銭湯用の小さな買い物かごにシャンプーとトリートメント、ボディソープを入れる。エコバッグにタオルとバスタオルを入れて、お気に入りの赤い傘をさして外に出た。雨は小雨になっていて、帰りには止みそうだ。
銭湯なんて久しぶり。前回行ったのは給湯器が壊れた時だから、一年くらい前だ。歩くこと十五分。銭湯独特の暖簾をくぐると高台におばあちゃんが座っていて、あたしは小銭を取り出しぴったり渡す。ごゆっくり、とにたりと笑うおばあちゃんの笑顔は独特だ。最初、失礼ながらちょっと気味が悪い笑い方だなと思ったが、この笑い方がおばあちゃんの満面の笑みなのだ。常連客の会話を隣で聞いてわかったことだが、昔からこの笑顔なのだそう。
服を脱ぎ、浴場に入る。むわりと湯気が立ちこめ一瞬前が見えなかったが、すぐに視界が開けて湯船の向こうの壁に富士山の絵が見えた。あたしは洗い場でさっさと体と髪を洗うと、富士山の元へ早速向かう。足の指で熱さを確かめ、ゆっくり入る。少し熱めだが、雨で冷えた体を温めるには丁度いい温度だ。肩まで浸かり、温まる。うちのお風呂でも足は伸ばせるが、広いお風呂は開放感が違う。かぽーん、という銭湯特有の桶をひっくり返す音にも風情がある。
十分ほど浸かって上がり、フルーツ牛乳をちびちび飲んでおばあちゃんにありがとうございましたー、とお礼を言って外に出る。雨は上がり、傘は畳んだまま手に持った。雲もなく、田舎町の夜空には星が煌めき、きらきら星を奏でている。体は温まったがまだ夜は冷える。湯冷めしないうちに帰ろうとしたとき、男湯から出てきた男性にタイミング悪くぶつかってしまった。
「「すいませ、……あ」」
声が重なり、顔を上げると蜜葉があたしを見下ろしていた。こんなところで会うなんて。あたしは嬉しくて自然と頬が緩んでしまう。蜜葉もやんわりと笑う。
「鈴華、こんばんは」
「蜜葉、こんばんは。銭湯、よく来るの?」
「うん。よく来る。好きなんだ。鈴華は?珍しいんじゃない?」
「水道管の工事があって、水道が明日まで使えないの。しかも雨に当たっちゃってずぶ濡れ。温まりたくて来ちゃった。あ、ごめんなさい」
男湯の出入り口付近で話していたので、入ろうとしていた人の邪魔になっていたことに気づき端に寄る。蜜葉はあたしの手を引いて銭湯から少し離れた脇道に寄る。
「水道出ないの大変じゃない。うち、来る?」
「え、いいの?」
繋いだ手を、思わずぎゅっと握りしめた。
「もちろん。泊まっていきなよ」
付き合って初めての蜜葉のうちだ。
「じゃあ、お泊まりセット用意してく」
「お風呂上がりであと寝るだけでしょ?このままおいでよ。うち、すぐ近くだよ」
「そうなの?」
「そう。ほら、ここ」
銭湯の斜め向かいの木製の、古い三階建てのアパート。その二階を指差し、蜜葉は笑う。
「え。近い。そうなの」
「そう。どうする?」
「行く」
蜜葉はふっと笑いあたしの手を引いたままアパートの階段を上る。三階建てのアパートは、各階一室ずつで、蜜葉は二階のドアを開ける。
「どーぞ」
「お邪魔します」
中に入ると、ふんわりと洗濯物の匂いがした。蜜葉から時々香る匂いは柔軟剤だったらしい。靴を脱ぎ、リビングに入る。キッチンと、奥に二部屋あるのが見える。リビングには二人掛けのテーブルと椅子が置いてあり、その向こうにソファとテレビがある。
「結構広い」
「でしょ。古いけどリフォームされてるし、部屋も寝室と仕事部屋で使い分けてる。お得物件」
「ふーん。いいなあ。銭湯も近いし入り放題ね」
「気に入ってる。コーヒーでいい?それとももう寝る?歯ブラシあるよ。コップも」
「え?あ、ありがと。でもコーヒー飲みたい。手伝う」
「ありがと。ドリップコーヒーあるよ」
「お洒落。あ、種類たくさんある」
「好きなの飲みなよ。カフェオレもあるよ」
「ほんとだ。楽しい」
「それは良かった」
蜜葉からマグカップを手渡されカフェオレを淹れていると、蜜葉が戸棚からクッキー缶を取り出す。コンビニやスーパーでは見かけない、お高めのクッキーだ。
「それ、結構いいやつだ」
「会社の同僚が取引先の人から貰ってさ。僕が甘いの好きだからってくれたんだ」
「ふうん。色々入ってるね」
缶を開けると、色とりどりのクッキーが所狭しと並んでいる。蜜葉もコーヒーを淹れると、ソファに並んで座り、テレビを付けてコーヒーを飲む。
なんか、恋人っぽい。恋人だけど。
コーヒーを飲むマグカップは色違いのお揃いだ。うちにあるマグカップとはまた別の種類。なんだか照れくさくて熱くなる頬を、後れ毛を耳にかけて誤魔化す。
「マグカップ、お揃いなのね」
「ん?ああ、うん。鈴華のうちにあるのを買ったときに一緒に買った」
「ふうん。そうなんだ」
クッキーを一つ手に取りサクリと齧る。バターの濃厚な香りと舌の上で溶ける食感に感動し、二個三個と手が進む。
「美味しいの?」
「美味しい。蜜葉も食べてみて。これ、美味しかった」
丸くて小さなクッキーを指さすと、蜜葉はそれを無視してあたしが食べようと手に持っていたチョコレートクッキーに口を近づけ、あたしの手首を掴んでぱくりと一口で食べてしまった。指まで口に含まれ、胃のあたりが収縮する。眼鏡の奥の目が、扇情的に憂いている。
「クッキーに夢中なのも可愛いけど、妬けるね」
「ク、クッキー妬いたの?やだ。蜜葉ウケる」
「僕以外のものに心奪われている鈴華を見るの、あんまり好きじゃないな」
「そ、それ、あたしはどうすれば」
「キスしたい」
「い、今クッキー食べてる、んっ」
蜜葉から口を喰まれると、コーヒーとチョコレートの匂いが口の中に広がった。蜜葉が体重をかけてきて、あたしはソファに押し倒される。角度を変えて何度もキスをして、やっと顔を離すとあたしは真っ赤になって蜜葉の口を手で押さえた。
「もう、寝る!」
「そう?」
「そう!」
「歯ブラシあるよ」
「ありがと!」
蜜葉から逃れてカフェオレを飲み切ると、洗面所を探して鏡の前に立つ。鏡に映った自分の顔は、蜜葉のキスにとろけてだらしない。蜜葉が追いかけてきて、洗面所の戸棚から新品の赤い歯ブラシを手渡してくれた。コップも赤の花柄の可愛いものだ。
「用意周到ね。ありがとう」
なんだか、もやっとする。マグカップはあたしと出会ってから買ったものだけど、歯ブラシとコップはどうなんだろう。元カノのものだったりとか、なんてマイナス思考になってしまう。蜜葉も並んで歯を磨き、寝室へと案内された。セミダブルのベッドが壁側に寄せられ、クローゼットとチェストが置いてある。
奥側どーぞ、と言われて布団を捲りベッドに入る。続いて蜜葉も遠慮なくぴたりと寄り添った。
「枕、ふたつある。……あの、聞いてもいい?なんでこんな用意周到なの。一人暮らしよね」
「鈴華はいつになったら僕が鈴華ひとすじだって信じるのかな」
「あ、ご、ごめん」
困ったように微笑む蜜葉に、あたしはまだ元カレに裏切られた傷が癒えてないのだと悟る。蜜葉に一途に想われていることに自信が持てない。裏切られているんじゃないかと、心のどこかで思ってしまう。それは蜜葉を信じていないことになってしまい、とても不本意なのだがどうしようもない。あたしは蜜葉を愛しているけど、蜜葉のあたしへの愛を疑っているわけじゃないけど、その愛があたしだけのものとは限らない。愛が他の女にも分散されているんじゃないかって勝手に思ってしまう。
蜜葉が腰を引き寄せ、耳元に口を寄せる。
「いつか来る鈴華を想像してたらお揃いのものが増えた。ほとんど無意識」
「……枕も?」
「新調した。あ、拘りあった?そば枕がいいとか」
「ううん。ない。……実は、ちょっと気にしてたの。いつもあたしのうちに来てくれるけど、蜜葉のうちには誘ってくれないなぁ、なんて」
蜜葉のテリトリーに入りたい。でもあんまり入り込んで嫌われたくない。それにもしかしたら見られたくない何かがあるのかも、なんて考えたら、安易に蜜葉のうちに行きたいなんて言えなかった。
蜜葉はすり、と頭に頬を寄せる。
「勝手にいろいろ揃えちゃったからさ。だから、うちに誘いづらかった。重くない?引いてる?」
「ううん。嬉しい」
首を振ると、蜜葉がほっとしてような頬を緩めた。
「良かった。……寝る?」
「うん。寝る。……でも」
「ん?」
「その、き、キスの続きしてからでも、いいけど」
「もちろん。そのつもりだったけど?」
「え、あ、そうなんだ」
蜜葉の目の奥の熱にきゅん、と胃が収縮する。目を閉じると、柔らかな感触がしてそっと口を開いてキスを受け入れた。
ずぶ濡れのままじゃ風邪を引く。現に少し寒気がする。銭湯用の小さな買い物かごにシャンプーとトリートメント、ボディソープを入れる。エコバッグにタオルとバスタオルを入れて、お気に入りの赤い傘をさして外に出た。雨は小雨になっていて、帰りには止みそうだ。
銭湯なんて久しぶり。前回行ったのは給湯器が壊れた時だから、一年くらい前だ。歩くこと十五分。銭湯独特の暖簾をくぐると高台におばあちゃんが座っていて、あたしは小銭を取り出しぴったり渡す。ごゆっくり、とにたりと笑うおばあちゃんの笑顔は独特だ。最初、失礼ながらちょっと気味が悪い笑い方だなと思ったが、この笑い方がおばあちゃんの満面の笑みなのだ。常連客の会話を隣で聞いてわかったことだが、昔からこの笑顔なのだそう。
服を脱ぎ、浴場に入る。むわりと湯気が立ちこめ一瞬前が見えなかったが、すぐに視界が開けて湯船の向こうの壁に富士山の絵が見えた。あたしは洗い場でさっさと体と髪を洗うと、富士山の元へ早速向かう。足の指で熱さを確かめ、ゆっくり入る。少し熱めだが、雨で冷えた体を温めるには丁度いい温度だ。肩まで浸かり、温まる。うちのお風呂でも足は伸ばせるが、広いお風呂は開放感が違う。かぽーん、という銭湯特有の桶をひっくり返す音にも風情がある。
十分ほど浸かって上がり、フルーツ牛乳をちびちび飲んでおばあちゃんにありがとうございましたー、とお礼を言って外に出る。雨は上がり、傘は畳んだまま手に持った。雲もなく、田舎町の夜空には星が煌めき、きらきら星を奏でている。体は温まったがまだ夜は冷える。湯冷めしないうちに帰ろうとしたとき、男湯から出てきた男性にタイミング悪くぶつかってしまった。
「「すいませ、……あ」」
声が重なり、顔を上げると蜜葉があたしを見下ろしていた。こんなところで会うなんて。あたしは嬉しくて自然と頬が緩んでしまう。蜜葉もやんわりと笑う。
「鈴華、こんばんは」
「蜜葉、こんばんは。銭湯、よく来るの?」
「うん。よく来る。好きなんだ。鈴華は?珍しいんじゃない?」
「水道管の工事があって、水道が明日まで使えないの。しかも雨に当たっちゃってずぶ濡れ。温まりたくて来ちゃった。あ、ごめんなさい」
男湯の出入り口付近で話していたので、入ろうとしていた人の邪魔になっていたことに気づき端に寄る。蜜葉はあたしの手を引いて銭湯から少し離れた脇道に寄る。
「水道出ないの大変じゃない。うち、来る?」
「え、いいの?」
繋いだ手を、思わずぎゅっと握りしめた。
「もちろん。泊まっていきなよ」
付き合って初めての蜜葉のうちだ。
「じゃあ、お泊まりセット用意してく」
「お風呂上がりであと寝るだけでしょ?このままおいでよ。うち、すぐ近くだよ」
「そうなの?」
「そう。ほら、ここ」
銭湯の斜め向かいの木製の、古い三階建てのアパート。その二階を指差し、蜜葉は笑う。
「え。近い。そうなの」
「そう。どうする?」
「行く」
蜜葉はふっと笑いあたしの手を引いたままアパートの階段を上る。三階建てのアパートは、各階一室ずつで、蜜葉は二階のドアを開ける。
「どーぞ」
「お邪魔します」
中に入ると、ふんわりと洗濯物の匂いがした。蜜葉から時々香る匂いは柔軟剤だったらしい。靴を脱ぎ、リビングに入る。キッチンと、奥に二部屋あるのが見える。リビングには二人掛けのテーブルと椅子が置いてあり、その向こうにソファとテレビがある。
「結構広い」
「でしょ。古いけどリフォームされてるし、部屋も寝室と仕事部屋で使い分けてる。お得物件」
「ふーん。いいなあ。銭湯も近いし入り放題ね」
「気に入ってる。コーヒーでいい?それとももう寝る?歯ブラシあるよ。コップも」
「え?あ、ありがと。でもコーヒー飲みたい。手伝う」
「ありがと。ドリップコーヒーあるよ」
「お洒落。あ、種類たくさんある」
「好きなの飲みなよ。カフェオレもあるよ」
「ほんとだ。楽しい」
「それは良かった」
蜜葉からマグカップを手渡されカフェオレを淹れていると、蜜葉が戸棚からクッキー缶を取り出す。コンビニやスーパーでは見かけない、お高めのクッキーだ。
「それ、結構いいやつだ」
「会社の同僚が取引先の人から貰ってさ。僕が甘いの好きだからってくれたんだ」
「ふうん。色々入ってるね」
缶を開けると、色とりどりのクッキーが所狭しと並んでいる。蜜葉もコーヒーを淹れると、ソファに並んで座り、テレビを付けてコーヒーを飲む。
なんか、恋人っぽい。恋人だけど。
コーヒーを飲むマグカップは色違いのお揃いだ。うちにあるマグカップとはまた別の種類。なんだか照れくさくて熱くなる頬を、後れ毛を耳にかけて誤魔化す。
「マグカップ、お揃いなのね」
「ん?ああ、うん。鈴華のうちにあるのを買ったときに一緒に買った」
「ふうん。そうなんだ」
クッキーを一つ手に取りサクリと齧る。バターの濃厚な香りと舌の上で溶ける食感に感動し、二個三個と手が進む。
「美味しいの?」
「美味しい。蜜葉も食べてみて。これ、美味しかった」
丸くて小さなクッキーを指さすと、蜜葉はそれを無視してあたしが食べようと手に持っていたチョコレートクッキーに口を近づけ、あたしの手首を掴んでぱくりと一口で食べてしまった。指まで口に含まれ、胃のあたりが収縮する。眼鏡の奥の目が、扇情的に憂いている。
「クッキーに夢中なのも可愛いけど、妬けるね」
「ク、クッキー妬いたの?やだ。蜜葉ウケる」
「僕以外のものに心奪われている鈴華を見るの、あんまり好きじゃないな」
「そ、それ、あたしはどうすれば」
「キスしたい」
「い、今クッキー食べてる、んっ」
蜜葉から口を喰まれると、コーヒーとチョコレートの匂いが口の中に広がった。蜜葉が体重をかけてきて、あたしはソファに押し倒される。角度を変えて何度もキスをして、やっと顔を離すとあたしは真っ赤になって蜜葉の口を手で押さえた。
「もう、寝る!」
「そう?」
「そう!」
「歯ブラシあるよ」
「ありがと!」
蜜葉から逃れてカフェオレを飲み切ると、洗面所を探して鏡の前に立つ。鏡に映った自分の顔は、蜜葉のキスにとろけてだらしない。蜜葉が追いかけてきて、洗面所の戸棚から新品の赤い歯ブラシを手渡してくれた。コップも赤の花柄の可愛いものだ。
「用意周到ね。ありがとう」
なんだか、もやっとする。マグカップはあたしと出会ってから買ったものだけど、歯ブラシとコップはどうなんだろう。元カノのものだったりとか、なんてマイナス思考になってしまう。蜜葉も並んで歯を磨き、寝室へと案内された。セミダブルのベッドが壁側に寄せられ、クローゼットとチェストが置いてある。
奥側どーぞ、と言われて布団を捲りベッドに入る。続いて蜜葉も遠慮なくぴたりと寄り添った。
「枕、ふたつある。……あの、聞いてもいい?なんでこんな用意周到なの。一人暮らしよね」
「鈴華はいつになったら僕が鈴華ひとすじだって信じるのかな」
「あ、ご、ごめん」
困ったように微笑む蜜葉に、あたしはまだ元カレに裏切られた傷が癒えてないのだと悟る。蜜葉に一途に想われていることに自信が持てない。裏切られているんじゃないかと、心のどこかで思ってしまう。それは蜜葉を信じていないことになってしまい、とても不本意なのだがどうしようもない。あたしは蜜葉を愛しているけど、蜜葉のあたしへの愛を疑っているわけじゃないけど、その愛があたしだけのものとは限らない。愛が他の女にも分散されているんじゃないかって勝手に思ってしまう。
蜜葉が腰を引き寄せ、耳元に口を寄せる。
「いつか来る鈴華を想像してたらお揃いのものが増えた。ほとんど無意識」
「……枕も?」
「新調した。あ、拘りあった?そば枕がいいとか」
「ううん。ない。……実は、ちょっと気にしてたの。いつもあたしのうちに来てくれるけど、蜜葉のうちには誘ってくれないなぁ、なんて」
蜜葉のテリトリーに入りたい。でもあんまり入り込んで嫌われたくない。それにもしかしたら見られたくない何かがあるのかも、なんて考えたら、安易に蜜葉のうちに行きたいなんて言えなかった。
蜜葉はすり、と頭に頬を寄せる。
「勝手にいろいろ揃えちゃったからさ。だから、うちに誘いづらかった。重くない?引いてる?」
「ううん。嬉しい」
首を振ると、蜜葉がほっとしてような頬を緩めた。
「良かった。……寝る?」
「うん。寝る。……でも」
「ん?」
「その、き、キスの続きしてからでも、いいけど」
「もちろん。そのつもりだったけど?」
「え、あ、そうなんだ」
蜜葉の目の奥の熱にきゅん、と胃が収縮する。目を閉じると、柔らかな感触がしてそっと口を開いてキスを受け入れた。