それは面倒で。 でも愛しくて。
拗ねた口調になってしまうが勘弁してほしい。遠距離恋愛になり疎遠になってしまう恋人は、珍しくはない。あたしたちもそうなるのかな、なんて蜜葉の部屋でひとり泣いたこともある。仕事が忙しいなら、こっちから連絡することも憚るし、どうしたらいいのかわからなくて気持ちは路頭に迷うばかり。そんなとき、蜜葉からメッセージが来たのはタイミングが良すぎた。
「ごめん。なかなかの依頼が最後に舞い込んできてさ。これが終わらないと帰れなかったから集中したかったんだ」
「一回くらい連絡をくれてもよくない?」
「連絡しなさすぎて、どうしたらいいのかわからなくなってた。鈴華からも来てなかったし、愛想尽かされたかと思ったら怖くて出来なかった」
「だからコーヒーショップで待ってます、だったの」
あたしがまだ蜜葉を好きかどうかを、この場所に託したというわけだ。あたしはテーブルの下の蜜葉の足を、こつんとつま先で蹴飛ばす。
「意気地なし。普通に帰ってくればよかったのよ」
「それは、どっちの家に?」
「蜜葉の家に。確率は半々だけど」
「来てくれてたんだ」
「留守を預かる身だもの。ちゃんと綺麗にしてあります」
「嬉しい。ありがとう。ところでさ」
蜜葉が、すっと目を細める。嫉妬の揺らめきが、目の奥で光る。どき、として、頬が染まる。久しぶりのやきもちに、胸が高まる。
「あいつと、仲良さそうだね。何話してたの」
「普通に注文してただけよ。……今日の格好、変じゃないか聞いてた」
「全然変じゃない。可愛いよ。それは、僕に聞けばよくない?」
拗ねてしまった蜜葉が可愛くて、ふふ、と笑うと更に機嫌が悪くなってしまったのできゅっと唇を引き結ぶ。そっぽを向いた蜜葉の顔を両手で包み込み、身を乗り出して耳元に唇を寄せる。
「蜜葉に会うために可愛くしたのよ。わかってよ」
そのまま耳朶にキスをすると、その耳が一気に真っ赤になる。椅子に座り直すと、首まで真っ赤になった蜜葉がずるい、とぼそりと呟く。
「少し離れた間に、ご機嫌取り上手くなったね」
「そう?……嫌?」
「新たな鈴華の一面が見れて嬉しいよ」
今度は蜜葉があたしの耳に触れ、ハート型のピアスを撫でた。
「……そのピアス、してくれたんだ」
「とても、気に入ってるの。なくしたくないから、付けるのは今日で二回目。似合う?」
「世界一似合う」
「大袈裟ね」
「本当にそう思うよ」
はにかみ、カフェオレを飲んで高ぶる気持ちを抑える。どうしよう。蜜葉に触れたい。たくさん、くっつきたい。あたしから誘うのははしたないかな。ちら、と蜜葉を見ると、真っ直ぐに見つめる目の奥に、情欲の色が剣呑に光っていて鼓動が跳ねた。蜜葉は眼鏡を片手で掛け直し、咳払いする。
「このあと、さ。家においで。……鈴華に、早く触れたい」
「……うん。あたしも、早く蜜葉に触りたい」
チョコレートドーナツを齧る。早く帰りたいのに帰りたくなくて、もそもそと食べるあたしを蜜葉が幸せそうに見つめる。
「鈴華」
「ん、なに?」
「ただいま」
「……おかえりなさい」
コーヒーの香りに包まれながら、春の陽気を感じ取る。外に目をやると、まだ葉の生い茂らない木々が立ち並ぶ風景は少し寂しいが、新芽が太陽に誘われてちょこんと芽を出しているさまは愛らしい。
来年も再来年も、こうして蜜葉と春を迎えられることを願いながら、チョコレートドーナツの最後の一欠片を口の中に放り込んだ。
...end
「ごめん。なかなかの依頼が最後に舞い込んできてさ。これが終わらないと帰れなかったから集中したかったんだ」
「一回くらい連絡をくれてもよくない?」
「連絡しなさすぎて、どうしたらいいのかわからなくなってた。鈴華からも来てなかったし、愛想尽かされたかと思ったら怖くて出来なかった」
「だからコーヒーショップで待ってます、だったの」
あたしがまだ蜜葉を好きかどうかを、この場所に託したというわけだ。あたしはテーブルの下の蜜葉の足を、こつんとつま先で蹴飛ばす。
「意気地なし。普通に帰ってくればよかったのよ」
「それは、どっちの家に?」
「蜜葉の家に。確率は半々だけど」
「来てくれてたんだ」
「留守を預かる身だもの。ちゃんと綺麗にしてあります」
「嬉しい。ありがとう。ところでさ」
蜜葉が、すっと目を細める。嫉妬の揺らめきが、目の奥で光る。どき、として、頬が染まる。久しぶりのやきもちに、胸が高まる。
「あいつと、仲良さそうだね。何話してたの」
「普通に注文してただけよ。……今日の格好、変じゃないか聞いてた」
「全然変じゃない。可愛いよ。それは、僕に聞けばよくない?」
拗ねてしまった蜜葉が可愛くて、ふふ、と笑うと更に機嫌が悪くなってしまったのできゅっと唇を引き結ぶ。そっぽを向いた蜜葉の顔を両手で包み込み、身を乗り出して耳元に唇を寄せる。
「蜜葉に会うために可愛くしたのよ。わかってよ」
そのまま耳朶にキスをすると、その耳が一気に真っ赤になる。椅子に座り直すと、首まで真っ赤になった蜜葉がずるい、とぼそりと呟く。
「少し離れた間に、ご機嫌取り上手くなったね」
「そう?……嫌?」
「新たな鈴華の一面が見れて嬉しいよ」
今度は蜜葉があたしの耳に触れ、ハート型のピアスを撫でた。
「……そのピアス、してくれたんだ」
「とても、気に入ってるの。なくしたくないから、付けるのは今日で二回目。似合う?」
「世界一似合う」
「大袈裟ね」
「本当にそう思うよ」
はにかみ、カフェオレを飲んで高ぶる気持ちを抑える。どうしよう。蜜葉に触れたい。たくさん、くっつきたい。あたしから誘うのははしたないかな。ちら、と蜜葉を見ると、真っ直ぐに見つめる目の奥に、情欲の色が剣呑に光っていて鼓動が跳ねた。蜜葉は眼鏡を片手で掛け直し、咳払いする。
「このあと、さ。家においで。……鈴華に、早く触れたい」
「……うん。あたしも、早く蜜葉に触りたい」
チョコレートドーナツを齧る。早く帰りたいのに帰りたくなくて、もそもそと食べるあたしを蜜葉が幸せそうに見つめる。
「鈴華」
「ん、なに?」
「ただいま」
「……おかえりなさい」
コーヒーの香りに包まれながら、春の陽気を感じ取る。外に目をやると、まだ葉の生い茂らない木々が立ち並ぶ風景は少し寂しいが、新芽が太陽に誘われてちょこんと芽を出しているさまは愛らしい。
来年も再来年も、こうして蜜葉と春を迎えられることを願いながら、チョコレートドーナツの最後の一欠片を口の中に放り込んだ。
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