それは面倒で。 でも愛しくて。
 食べ終わったのを見て、コーヒーを出すと蜜葉は紙ナプキンで口を拭き「美味しかったです」と柔らかく微笑む。
「良かった。コーヒーはブラックで良かったですよね」
「はい。大丈夫です」
「ゆっくりしていってくださいね」
「いいんですか?」
「あまり混んでないし、お仕事なさっていても問題ありませんよ」
「助かります。雰囲気のいい喫茶店ですね。仕事がはかどりそうです」
 蜜葉はそれからコーヒーを飲みながらパソコンを開き仕事に集中した。
 その間もドア鈴が鳴りちらほらとお客さんが来て、あたしは注文を受けては店主に伝える。昼を過ぎた頃にはケーキセットが多く出るので、店主は休憩に入りこの一時間はあたし一人になる。
 お客さんが落ち着くと、忙しさで誤魔化されていた気持ちが溢れ出し、あたしの涙腺は崩壊し始める。こめかみが痛くなると、あたしは厨房に入って目頭を押さえる。深呼吸してなんとか落ち着き、水を飲んでため息を吐く。
「会計お願いしまーす」
 レジ前で、常連のおばさま二人組が呼んでいる。
 あたしは慌ててレジ前に行き会計を終わらせる。
「あら、鈴華ちゃん。目が腫れてるわ。どーしたの」
「あ、えと。昨日の夜見た映画に号泣しちゃって」
「そうなの。結構腫れてるから冷やしたほうがいいわよ。じゃあ、店主によろしくねー」
「はい。ありがとうございました」
 深々と礼をして見送ると、テーブルを片付けるため布巾を持って空席に向かう。その途中、蜜葉とばっちり視線が合ってきゅっと唇を引き結んだ。
「ハンカチ、持ってます?」
「今、洗濯中です」
「いつもあのように誤魔化してるんですか」
「正直になんて言えませんよ」
「店主にも?」
「言ってません。でも……気づいてるとは思います」
「気づいてますよ。休憩に入るとき、心配そうに鈴華さんのこと見てましたから」
 そうだろうな、とは思っていた。
 あたしと元カレが付き合っていたのも別れたのも、店主は知っている。でも、この涙腺崩壊は言えずにいた。ただ、涙が止まらなくなると休憩室にこもり戻れば目を腫らしているので、きっと誤魔化しきれてないだろうなとは思っていた。店主は優しいから、何も言わなかったのだ。
「心配かけてばかりだわ。店主にも、蜜葉さんにも。ごめんなさい」
「そのうち涙が枯れて出なくなりますよ。大丈夫です」
「枯れるんですか?」
「干からびるほどに」
 寂しそうに微笑む蜜葉に、きっとこの人にも悲しい過去があったんだわ、と想像する。それを聞くのは野暮になる。聞きたいけど、やめておこう。
「コーヒーのお代わりと、チーズケーキをお願いします」
「あ、はい。かしこまりました」
 あたしはテーブルを片付けるとコーヒーをドリップし、チーズケーキをショーケースから出して皿に盛った。伝票を追加して、蜜葉のテーブルまで運ぶ。
 ありがとうございます、と蜜葉はいつもの柔らかい微笑みを浮かべた。
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