それは面倒で。 でも愛しくて。
 夕方。
 蜜葉は伸びをして、パソコンを片付けると伝票を持って来たので受け取りレジを打つ。
「とても美味しかったし有意義な時間を過ごせました。ありがとう」
「こちらこそ。本当に来てくれるなんて、嬉しかった」
 お釣りを渡すと、蜜葉は意地悪そうに笑った。普段の柔らかな笑みとは対照的で、そんな表情もするんだと鼓動が跳ねる。
「来ないと思ったんですか?」
「社交辞令かと。だって面倒、でしょ?」
「……面倒だと、思ったんですけどね」
 ぽり、と指で頬を掻く蜜葉に首を傾げる。
「あのコーヒーショップは僕のお気に入りです。でも木ノ葉も居心地が良くて通うと思います」
「嬉しいです。ここは何でも美味しいですよ。オムライスもおすすめです」
「じゃあ次は、オムライスを頼みます。それで、あと」
「はい。何でしょう」 
「僕は、あなたを口説いて落としたら、まずデートをします。何回か逢瀬を重ねた後に、あなたが許せば触れるかもしれない。そして浮気なんて絶対にしない。だから安心してくださいね」
「……口説いてます?」
「口説いてません」
「それは、失礼しました」
「いいえ」
「いきなりどうしたんですか」
「僕は元カレとは違いますっていうアピールです」
「……はあ」
 気のない返事に蜜葉は苦笑した。
「また、来ます。あ、でも次会うのはコーヒーショップですかね」
「休日には、行きますよ」
「次の休みはいつですか?」
「定休日が木曜なので、木曜にはいますよ」
「じゃあ、木曜に」
「はい。ありがとうございました」
 柔らかく微笑み、蜜葉はドア鈴を鳴らして帰っていった。蜜葉が座っていた席が空いてしまい、なんだか少し寂しい気持ちになる。
 テーブルを片付け戻ってくると、店主が太い腕を組んで難しい顔をしていたので声を掛けた。
「どうしましたか?」
「あの男は大丈夫そうな気がするが……面倒な臭いがする。気をつけなさい」
「ふふ。ご心配ありがとうございます。でもあたし、しばらく男の人はいいかなって思ってるんです。蜜葉さんは、話しやすいから友達みたいな感じです」
「向こうはそうじゃない気が……いや、何でもない。とにかく気をつけなさい」
「はーい」
 親子ほど歳が離れている店主は、あたしを娘のように思ってくれて、あたしも店主を父親のように思っている。お互い家族がいないせいか、ないものねだりをして心の穴を埋めている。
 そろそろ閉店準備、とあたしは空いている席のテーブルを拭き始めた。
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