元カノの恋愛小説が映画になったので、忘れたはずの初恋が大ヒット上映中です
夕方、自分の事務仕事を終わらせて学校を出た。

副校長先生から預かった書類の住所へ向かう。

「……このマンションか」

マンションの前に到着し、住所をあらためて確認した。

エントランスへ入り、部屋番号を入力した。

「〇〇市立西中学校の藤森です」

「……え……」

インターホン越しにも驚きが伝わってくる。

そして少し沈黙が続いた後、慌てた声が聞こえた。

「あっ。ど、どうぞっ」

それと共にエントランスのドアが開いた。

中へ入り、エレベーターで上がりながら息を整える。

頭の中で会話をシミュレーションする。

そうしないと、余計なことを口走ってしまいそうだった。

ドアの前でチャイムを鳴らすと、すぐにドアが開いた。

理緒が姿を見せる。

「お待たせしてすみません」

「いや、早かったよ」

「あの……エントランスで……」

理緒は恥ずかしそうな顔をする。

「あぁ。ごめん。俺が来るとは思わなかったよな」

「……副校長先生が来るものだとばかり……」

「そうだったんだけど、急に面談が入っちゃって」

「そう……なんですね」

理緒の戸惑いが伝わってくる。

自分だって、もう会うことはないと思っていた。

場の空気を誤魔化すように、用件を伝える。

「あ、あの。副校長先生から聞いてるかもしれないけど、この書類を書き直してもらいたくて。あと、この印鑑も」

「こんなところでごめんなさい。中へどうぞ」

理緒に招かれ、靴を脱いで中へ入る。

普通のマンションの一室を事務所として使っているようだった。

奥にはデスクが四つ並んでいる。

「ごめんなさい。今みんな出払っていて……」

「あぁ。忙しい時にごめんね」

「いえ。私はちょうど一息つこうと思っていたところです。紅茶でいいですか?」

そう言いながら、キッチンでカップを一つ用意している。

先に置かれていたもう一つのカップが目に入った。

――あのマグカップ……。

見覚えがあった。

中学時代、妹の未来と一緒に選んだ誕生日プレゼントのマグカップだった。

胸が苦しくなるほど高鳴る。

理緒は何も気にした様子もなく紅茶を淹れている。

やがて、モダンなティーカップに入った紅茶が差し出された。

「どうぞ」

「ありがとう」

「今、判子を持ってきますね」

「あ、うん」

そう言って、理緒は奥の部屋へ入っていった。

キッチンに置かれたままのマグカップ。

夜空に流れ星の模様が描かれている。

間違いなく、自分が選んだものだった。

紅茶を一口飲む。

「……おいしい」

飲み慣れたアップルティーの味だった。

そこへ理緒が戻ってくる。

「紅茶、美味しい。ありがとう」

「よかった。前に藤森先輩の家で出された紅茶が美味しくて……それから、たまに飲むようになったんです」
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