元カノの恋愛小説が映画になったので、忘れたはずの初恋が大ヒット上映中です
案の定、待ち合わせの水道橋には三十分ほど早く着いてしまった。

仕方なく川沿いを歩こうと橋を渡ろうとした時、息が止まった。

理緒が先にいた。

橋の上で川を眺めていた。

――今の、息が止まったの、何だよ。

自分の反応に、自分で戸惑う。

数日ぶりに会っただけ。

声を掛けるか迷っていると、理緒の視線がこちらに向いた。

「あ……」

理緒が驚いた表情をした。

「ごめん。声を掛けるべきか悩んでて」

理緒は笑った。

「声は掛けてください」

「……早いね」

「まみちゃんと先に待ち合わせしてたんですけど……まみちゃんって、今日来る予定の、小学校の同級生の」

「そうだったんだ」

「でも、来ないんです。そろそろ来るはずなのに」

「連絡は?」

「ないんです。普段、こんなことないので心配です」

「そうなんだ。じゃあ――」

そう言いかけた時、

「お待たせ」

後ろから男の声が聞こえた。

――この声がまみちゃんなのか!?

驚きながら振り返ると、そこにいたのは、「まみちゃん」から想像するにはかけ離れた容姿の男性だった。

背が高い。

少し長めの髪を無造作に束ね、Tシャツにジャケットを羽織っただけのカジュアルな格好。

なのに、なぜかカリスマ性を感じさせる威圧感がある。

そして、その人は当然のように理緒の隣へ立った。

「誠さん!?」

理緒が素っ頓狂な声を上げる。

「まみちゃんが都合悪くなったらしいから、代理で来た」

〝誠さん〟と呼ばれた男は、そう言って笑った。

その時、理緒のスマホが震え、理緒が画面を見る。

「まみちゃんからだ……」

理緒の表情が一瞬曇る。

「あの……まみちゃんが、『ごめんなさい』って」

理緒は申し訳なさそうな表情で、こちらに向かって謝った。

「いや、俺は大丈夫」

そもそも、〝まみちゃん〟を知らないので、〝誠さん〟に代わっても問題はない。

ただ、この〝誠さん〟は誰なのだろうか。

「そういうわけで、今日はこの三人でよろしく」

〝誠さん〟は爽やかな笑顔で言った。

その笑顔に問題はないのだが、俺は何となくムッとした。

「あの、紹介しますね。こちら、うちの社長の佐藤さんです」

「どうも、うちの神崎がお世話になってます」

佐藤さんがそう言った時、彼を見る理緒の目が鋭くなった気がした。

「で、こちらが……私の同級生の未来のお兄さんで……藤森先輩です」

理緒が気まずそうに紹介した。

俺も何と言っていいか分からなかった。

「……どうも」

そんな俺の気まずさなんて気にも留めない様子で、佐藤さんは思ってもいなかった一言を切り出した。

「君が、あの小説のモデル?」

そう言った佐藤さんは、悪びれた様子は微塵もなかった。
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