元カノの恋愛小説が映画になったので、忘れたはずの初恋が大ヒット上映中です
そうこうしているうちに、ホテルの近くへ着いた。

「ここのホテルの中のレストランです」

「へぇ。ホテルに泊まらず、レストランだけ利用するのは初めてだ」

「社長をしてても、そういうものなんですか?」

「まだスタートアップ企業だし」

「私も……初めて」

理緒の何気ない一言に、佐藤さんが反応する。

「へぇ。社長令嬢なのに?」

俺は初めて聞く話に驚いた。

「そうなの?」

「そんな、響きほど大したものじゃないですよ?」

「でも、理緒がその会社を継ぐかもしれなかったじゃん」

次々に俺の知らない理緒の一面が飛び出してくる。

「誠さん!」

理緒が珍しく慌てている。

「私が跡継ぎを目指していたのは小学生の頃です。藤森先輩に誤解を与えないでください。跡継ぎは、もう兄と決まっています」

「知らなかったな……」

理緒の知らない一面を知るたびに、理緒が遠く離れていくような気がした。

「すみません。中学生の頃は兄と仲違いしていたので……あまり藤森先輩に話す機会がなくて」

「あぁ、お兄さんは全寮制の高校へ行って、あまり話さないって言ってたね」

「俺も達也と同じ高校なんだ」

「え……全寮制の高校ですか!? やっぱり佐藤さんも普通ではないんですね」

思わず失礼な言い方をしてしまう。

それと同時に、住む世界が違う人のような気がした。

「誠さんは、これ以上余計なことは言わないでください」

「余計っていうか……たしかに、うちの高校は普通じゃないからさ」

「そうかもしれないですけど、普通じゃないのは誠さんと兄です。私は普通ですからね」

理緒は少し拗ねた顔をした。

その顔を佐藤さんへ向けている。

それがまた、俺の心をざらつかせる。

俺はそんな気持ちを誤魔化すように時計を見て、二人を促した。

「あの……そろそろ時間もちょうどいいので、中に入りましょうか?」

「あっ、そうですね。入りましょう。……未来とは中学卒業以来だから、楽しみです」

そんな理緒に、なぜか佐藤さんも乗っかる。

「俺も楽しみ」

佐藤さんが何を楽しみにしているのか分からない。

「誠さんは、本当に自重してください」

このレストランでの食事会が、無事に終わることを俺は願うしかなかった。
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