元カノの恋愛小説が映画になったので、忘れたはずの初恋が大ヒット上映中です
講師として舞台に立つ理緒は、中学生の頃、副委員長の推薦を断った時の印象とはまるで違っていた。

堂々としている。

でも、きっとこれが本当の理緒なんだと思った。

講演が進み、生徒からの質問に答えるコーナーになる。

「神崎さんは、この学校の卒業生とお聞きしました。物語の舞台は、この学校ですか?」

「そうですね。この学校をイメージして書きました」

「物語は本当の話ですか?」

「……物語を書く上で、私自身の内面をさらすという意味では、実話に近い部分もありますが……」

理緒がこちらをちらりと見る。

目が合った気がした。

「……どこがその部分かは、ご想像にお任せします」

――居た堪れない……。

マイクを持つ手に力が入る。

思わず下を向き、目を閉じた。

このまま聞いていたい気持ちもなくはない。

けれど、どんな質問が飛び出すかと思うと、早く切り上げたい気持ちにもなってしまう。

「では少し話題を変えて、今日は『キャリア教育』ということで、神崎先生のお仕事について質問がある人?」

司会進行として、つい口を挟んでしまう。

理緒がどんな顔をしているのか、見ることはできなかった。

「神崎先生は、なぜ作家になったんですか?」

「……私は、正確には作家ではないんです。先ほどお伝えしたとおり、私は大学の仲間たちと起業した会社で、広報や事務を担当しています。この小説を書いたのは、偶然の積み重ねの結果です」

会場が少しざわつく。

「学生起業したと聞くと、学生の頃から特別なことをしていたのではないかと想像するかもしれません。でも、私の中学時代は、この学校に通う普通の中学生でした。

ですが、この中学校での経験、高校での経験、大学での経験。そのすべてが積み重なって、今があります。

皆さんの中にも、『今はまだ何も持っていない』とか、『諦めてしまった』とか、そう思うことがあるかもしれません。

でも、そう思っていたものが、実は自分を形作っていたと気付く瞬間が、いずれ訪れると思います。

だから、どの瞬間も大切にしてください。

そして、過去も大切にしてください」

会場が静まり返る。

俺も思わず聞き入ってしまった。
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