終着駅のワンナイトは終わらない〜策士なイメチェン元後輩(一見ワンコ)の執着に囚われました〜【一話から】
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それからはまた仕事に打ち込んだ。いくつも並行で客先と社内の調整。小粒で開発案件ではないが、残業が増えて帰っては寝るだけの生活。自己啓発はそれを理由に止めてしまう。
意志が弱いと自己嫌悪しながら、それだけではないことも心のどこかでわかっていた。
「……これで良かったのに」
ジクジクと胸が痛んで、また朝早くにコーヒーメーカーの自動販売機の前でため息をつく。
配属されてすぐに失敗してとにかく落ち込んで。でもこのコーヒーを飲んだらいいアイディアが浮かんでうまく行ったから、以来のジンクスなのだ。プライベートの優先度が低い雪那は、仕事以外を理由にここでため息を吐こうと思ったりは過去しなかったけれど。
仕事と密接につながってしまっていた玲司が悪いと思う。
挙句に実家の母親からも「いい人がいるならさっさと連れてきなさい。それともやたら若いチャラチャラした男って方が本当なの?!恥ずかしいこと二度としないでよ!早くまともに身を固めなさい」と言われてしまった。
あんな親と険悪だったのに結婚して実家の近所に住んでいる一つ年上の兄からは、秋彦が奥さんの妊娠中に地元で遊び回っていたことが次々発覚して婿養子なのに離婚寸前、と聞いているけれど。さすが元チャラ男、と雪那の黒歴史とともにからかってくるので殺意が湧いた。情報源は絶対ここだ。
とにかく空手でも学校の成績でも就職でも雪那に勝てなかったからと言って、少しのことで雪那を貶して優位に立ちたくてたまらない兄。
雪那にしてみれば、上二人が失敗したからとやたら親に強く期待かけられて、途中からは女の子らしいことが全然できないと嘆かれ、最後は孫を見せる気も介護もする親不孝でそれに比べてお兄ちゃんのお嫁さんは……と罵られるに至り、妹にどれだけの役割を負わせいいとこどりだけしていくのかと兄たちには腹が立って仕方がない。
頭の片隅に追いやっている実家のことまでぐちゃぐちゃになってきて正直しんどい。
玲司と再会してから色々なことが怒涛に起こってくる。仕事もプライベートも振り回されて、トラウマ級の元彼とまで再会して。地元に負け戻るみたいな変な噂が広がらなかった運はあったとも思う。しかし、親の気にいる彼氏を連れてはいけないので、また母と兄に蔑まれるのかと思うと、絶望感さえ覚えた。
いや、一回置こう。無視だ無視。
カップをゴミ箱に捨てて、部署の部屋に一番乗りする。そこでピーガガガ、と今では珍しくなったファックス音が響いた。何気なくコピー機のそばで出てきた何枚かの紙をペラリとめくった。
その瞬間、ゾッと背筋が凍る。もう思い出したくもない記憶が一気にフラッシュバックして、呼吸の仕方がわからなくなった。
——第二システム営業部第一営業課の桐谷雪那は、ライバル会社の役員とできていて、社内情報を渡している。
グシャッと慌ててその紙を握りつぶした。けれどフリーアドレスになっている広い室内の別の部署のコピー機からも起動音と紙が何枚も排出される同じ音がしている。
五年前と同じだ。
きっと全部部署に送られているんだろう。今ここで必死に回収したところで無駄だ。
だから最初は人一倍に気をつけていたはずなのに、と、目の前が真っ暗になった気がした。
それからはまた仕事に打ち込んだ。いくつも並行で客先と社内の調整。小粒で開発案件ではないが、残業が増えて帰っては寝るだけの生活。自己啓発はそれを理由に止めてしまう。
意志が弱いと自己嫌悪しながら、それだけではないことも心のどこかでわかっていた。
「……これで良かったのに」
ジクジクと胸が痛んで、また朝早くにコーヒーメーカーの自動販売機の前でため息をつく。
配属されてすぐに失敗してとにかく落ち込んで。でもこのコーヒーを飲んだらいいアイディアが浮かんでうまく行ったから、以来のジンクスなのだ。プライベートの優先度が低い雪那は、仕事以外を理由にここでため息を吐こうと思ったりは過去しなかったけれど。
仕事と密接につながってしまっていた玲司が悪いと思う。
挙句に実家の母親からも「いい人がいるならさっさと連れてきなさい。それともやたら若いチャラチャラした男って方が本当なの?!恥ずかしいこと二度としないでよ!早くまともに身を固めなさい」と言われてしまった。
あんな親と険悪だったのに結婚して実家の近所に住んでいる一つ年上の兄からは、秋彦が奥さんの妊娠中に地元で遊び回っていたことが次々発覚して婿養子なのに離婚寸前、と聞いているけれど。さすが元チャラ男、と雪那の黒歴史とともにからかってくるので殺意が湧いた。情報源は絶対ここだ。
とにかく空手でも学校の成績でも就職でも雪那に勝てなかったからと言って、少しのことで雪那を貶して優位に立ちたくてたまらない兄。
雪那にしてみれば、上二人が失敗したからとやたら親に強く期待かけられて、途中からは女の子らしいことが全然できないと嘆かれ、最後は孫を見せる気も介護もする親不孝でそれに比べてお兄ちゃんのお嫁さんは……と罵られるに至り、妹にどれだけの役割を負わせいいとこどりだけしていくのかと兄たちには腹が立って仕方がない。
頭の片隅に追いやっている実家のことまでぐちゃぐちゃになってきて正直しんどい。
玲司と再会してから色々なことが怒涛に起こってくる。仕事もプライベートも振り回されて、トラウマ級の元彼とまで再会して。地元に負け戻るみたいな変な噂が広がらなかった運はあったとも思う。しかし、親の気にいる彼氏を連れてはいけないので、また母と兄に蔑まれるのかと思うと、絶望感さえ覚えた。
いや、一回置こう。無視だ無視。
カップをゴミ箱に捨てて、部署の部屋に一番乗りする。そこでピーガガガ、と今では珍しくなったファックス音が響いた。何気なくコピー機のそばで出てきた何枚かの紙をペラリとめくった。
その瞬間、ゾッと背筋が凍る。もう思い出したくもない記憶が一気にフラッシュバックして、呼吸の仕方がわからなくなった。
——第二システム営業部第一営業課の桐谷雪那は、ライバル会社の役員とできていて、社内情報を渡している。
グシャッと慌ててその紙を握りつぶした。けれどフリーアドレスになっている広い室内の別の部署のコピー機からも起動音と紙が何枚も排出される同じ音がしている。
五年前と同じだ。
きっと全部部署に送られているんだろう。今ここで必死に回収したところで無駄だ。
だから最初は人一倍に気をつけていたはずなのに、と、目の前が真っ暗になった気がした。