終着駅のワンナイトは終わらない〜策士なイメチェン元後輩(一見ワンコ)の執着に囚われました〜【一話から】
*
雪那は大手システムベンダーの営業である。
上に二人の兄と共に小さい頃から空手を習って男勝り。前向きな物おじしないメンタルの彼女は入社以来営業一筋で、フットワークの軽さと文系とはいえ情報系学部を出て、システム好きの趣味が生き、早期から優秀な営業成績を収めてきた。重要プロジェクトにも早々に抜擢され、エリート営業街道を駆け上がってきた。
女のくせに、とか、女が下駄履かせてもらって、とか色々言われても、時代遅れの負け惜しみと無視して邁進。26歳で初めて小さくともプロジェクトリーダー、以降いくつものプロジェクトに携わった。30歳で早期昇格枠で主任に抜擢されると同時に、新作システムの営業チーフまで任された。独身女で2回の転勤も残業も休日出勤も一切を厭わない雪那は、女性活躍成果主義、流行りのコンテンツにピッタリなのだ。ワークライフバランスは一片もないが。
しかし、突如、プライベートより仕事優先で生きてきた雪那の目論見が崩れた。確実に取れるだろうと踏んでいた昔から付き合いがある企業の受注を逃したことから始まる。
廉価な新しいスタートアップの会社と競合になっていたのは知っていたが、過去の実績と保守サービスの厚さを十分に売り込んできたはずだった。だというのに残念な電話を受け取ったときには目の前が真っ暗になった。
他に比べたら比較的小さめとはいえ数億円の失注だ。社内ではまだ桐谷にチーフは早かったのでは、との声も聞こえてくる。
その後もコンペの都度、同じ会社名を聞くようになる。遂には上司もサポートで入った。それでも今日、また、負けたのだ。
雪那は、努力すれば叶う、比較的恵まれて生きてきた。その反動かどうしたらそんなに悪いと言いたくなる男運のせいでろくでもない目にも遭っていたけれど。
とにかくここまでどうにもならない経験は初めてで、完全に打ちのめされていた。
だから、雪那は、初めて慰めてほしいと他人を必要とした。何年振りという定時で上がり、付き合って5年にもなる交際相手に電話をした。
いつもの精神状態の雪那だったら相手が出なかった時点で諦めていただろう。けれど今日ばかりは、話を聞いて欲しかった。
おそらくは、安易に逃げようとしたのだ。普段は思い出しもせず相手の都合も考えなかったくせに。だからバチが当たった。
『何で呼んでもいないのに勝手に来るんだよ!』
ほぼ使ったことはない合鍵で彼の家を訪ねたら、裸で知らない女とベッドにいた。彼が強請っていた銘柄の高いワインを取り落とさなかったのはひとえに勿体無いからである。
案外冷静で、はは、と引き攣って笑った。なにせ三度目だ。十年ぶりくらいに「またか」と思った。
『金は持ってるからまだキープしておいてもよかったけど、邪魔すんなら出てけよ。いつもいつも仕事だってドダキャンして喜んでたくせに、お前の都合がいいときだけこっちにすり寄って来るな』
確かに、何度約束しても守れず、マメな連絡もせず、放っておいたのは事実である。
浮気されたって文句の一つも言えない。いや浮気というよりもはや雪那がキープと吐き捨てられる二番手の女に成り下がっていたのだ。もしかしたら二番手以下。
『仕事で失敗しただが何だか知らないけど、稼げないお前なんか養う気あるわけないだろ。持ってるものもこれ見よがしに高い、金食い虫だしさ。鍵返してさっさと出てって』
いつか、年収の話になったら、彼の顔が引き攣っていた。ご褒美時計にも「今時、時計かよ。そんな無駄な金の使い方するなんて」と文句を言っていた。
自分のお金で自分の好きな物に投資して何が悪いのか。
稼いでいるんだから奢ってよ、と高いレストラン指定してホテル代も出して機嫌を損ねないように気を遣って夜を過ごして。彼に付き合ってもらう時間にかけるよりも自分の力で手に入れたい時計はよほどたくさん満たされる。
けれど、まだ、一人で生きる覚悟は決まらず、彼氏はいるという事実も周りに都合がよく、それなりの惰性で一緒に過ごせる相手としてキープしていたのだ。
相手のことを言えたものではない。ただ、雪那はその状況でも他の男と関係を持とうとは一度として思わなかった。
だから。
『一言の別れ話も持ちかけずに女を連れ込んでる時点で、あんたは二股男に変わりないわ。三股かも四股かもしれないけど。あとお金食い虫はそっち。あんな安月給で他の子に貢げるなら大したものね』
元彼と呼ぶに成り下がった男は、顔を真っ赤にして「関係ねえだろ!」と怒鳴りつけてきた。
それでも怯むことなく合鍵を投げつける。
『お邪魔しました。好きなだけ続きをどうぞ。気分が悪いからここに残ってるものがあれば全て捨てておいて。それくらいはやってよね』
『こう言う時でも顔色一つ変えずに平然としてるところが本当、鉄の女だよな。ついてけねえわ』
『女は自分より下じゃないと自尊心が保てない矮小な男はこちらからお断り。あ、キープでないそこの彼女さん。その人、給料日前になると高級ホテルに行きたがって手持ちがないと人に奢らせようとするから気をつけてね』
『お前にだけだよ!』
『あらそう?じゃあ浮くお金がなくなる分頑張って。そうそう、貸したお金は返してくれなくていいわ。借金返済頑張って』
『お金まで借りてたの?!借金?!お金持ちじゃなかったの!?』
ずっと彼の腕にしがみついてこちらをじっと睨んでいたふわふわボブのいかにも女子なお嬢さんが彼を問い詰め出した。やっぱり男運は改善しない30オーバーの干物女にそんなふうに見せつけなくても、と鼻を鳴らしてそのまま部屋を出て行った。
雪那は大手システムベンダーの営業である。
上に二人の兄と共に小さい頃から空手を習って男勝り。前向きな物おじしないメンタルの彼女は入社以来営業一筋で、フットワークの軽さと文系とはいえ情報系学部を出て、システム好きの趣味が生き、早期から優秀な営業成績を収めてきた。重要プロジェクトにも早々に抜擢され、エリート営業街道を駆け上がってきた。
女のくせに、とか、女が下駄履かせてもらって、とか色々言われても、時代遅れの負け惜しみと無視して邁進。26歳で初めて小さくともプロジェクトリーダー、以降いくつものプロジェクトに携わった。30歳で早期昇格枠で主任に抜擢されると同時に、新作システムの営業チーフまで任された。独身女で2回の転勤も残業も休日出勤も一切を厭わない雪那は、女性活躍成果主義、流行りのコンテンツにピッタリなのだ。ワークライフバランスは一片もないが。
しかし、突如、プライベートより仕事優先で生きてきた雪那の目論見が崩れた。確実に取れるだろうと踏んでいた昔から付き合いがある企業の受注を逃したことから始まる。
廉価な新しいスタートアップの会社と競合になっていたのは知っていたが、過去の実績と保守サービスの厚さを十分に売り込んできたはずだった。だというのに残念な電話を受け取ったときには目の前が真っ暗になった。
他に比べたら比較的小さめとはいえ数億円の失注だ。社内ではまだ桐谷にチーフは早かったのでは、との声も聞こえてくる。
その後もコンペの都度、同じ会社名を聞くようになる。遂には上司もサポートで入った。それでも今日、また、負けたのだ。
雪那は、努力すれば叶う、比較的恵まれて生きてきた。その反動かどうしたらそんなに悪いと言いたくなる男運のせいでろくでもない目にも遭っていたけれど。
とにかくここまでどうにもならない経験は初めてで、完全に打ちのめされていた。
だから、雪那は、初めて慰めてほしいと他人を必要とした。何年振りという定時で上がり、付き合って5年にもなる交際相手に電話をした。
いつもの精神状態の雪那だったら相手が出なかった時点で諦めていただろう。けれど今日ばかりは、話を聞いて欲しかった。
おそらくは、安易に逃げようとしたのだ。普段は思い出しもせず相手の都合も考えなかったくせに。だからバチが当たった。
『何で呼んでもいないのに勝手に来るんだよ!』
ほぼ使ったことはない合鍵で彼の家を訪ねたら、裸で知らない女とベッドにいた。彼が強請っていた銘柄の高いワインを取り落とさなかったのはひとえに勿体無いからである。
案外冷静で、はは、と引き攣って笑った。なにせ三度目だ。十年ぶりくらいに「またか」と思った。
『金は持ってるからまだキープしておいてもよかったけど、邪魔すんなら出てけよ。いつもいつも仕事だってドダキャンして喜んでたくせに、お前の都合がいいときだけこっちにすり寄って来るな』
確かに、何度約束しても守れず、マメな連絡もせず、放っておいたのは事実である。
浮気されたって文句の一つも言えない。いや浮気というよりもはや雪那がキープと吐き捨てられる二番手の女に成り下がっていたのだ。もしかしたら二番手以下。
『仕事で失敗しただが何だか知らないけど、稼げないお前なんか養う気あるわけないだろ。持ってるものもこれ見よがしに高い、金食い虫だしさ。鍵返してさっさと出てって』
いつか、年収の話になったら、彼の顔が引き攣っていた。ご褒美時計にも「今時、時計かよ。そんな無駄な金の使い方するなんて」と文句を言っていた。
自分のお金で自分の好きな物に投資して何が悪いのか。
稼いでいるんだから奢ってよ、と高いレストラン指定してホテル代も出して機嫌を損ねないように気を遣って夜を過ごして。彼に付き合ってもらう時間にかけるよりも自分の力で手に入れたい時計はよほどたくさん満たされる。
けれど、まだ、一人で生きる覚悟は決まらず、彼氏はいるという事実も周りに都合がよく、それなりの惰性で一緒に過ごせる相手としてキープしていたのだ。
相手のことを言えたものではない。ただ、雪那はその状況でも他の男と関係を持とうとは一度として思わなかった。
だから。
『一言の別れ話も持ちかけずに女を連れ込んでる時点で、あんたは二股男に変わりないわ。三股かも四股かもしれないけど。あとお金食い虫はそっち。あんな安月給で他の子に貢げるなら大したものね』
元彼と呼ぶに成り下がった男は、顔を真っ赤にして「関係ねえだろ!」と怒鳴りつけてきた。
それでも怯むことなく合鍵を投げつける。
『お邪魔しました。好きなだけ続きをどうぞ。気分が悪いからここに残ってるものがあれば全て捨てておいて。それくらいはやってよね』
『こう言う時でも顔色一つ変えずに平然としてるところが本当、鉄の女だよな。ついてけねえわ』
『女は自分より下じゃないと自尊心が保てない矮小な男はこちらからお断り。あ、キープでないそこの彼女さん。その人、給料日前になると高級ホテルに行きたがって手持ちがないと人に奢らせようとするから気をつけてね』
『お前にだけだよ!』
『あらそう?じゃあ浮くお金がなくなる分頑張って。そうそう、貸したお金は返してくれなくていいわ。借金返済頑張って』
『お金まで借りてたの?!借金?!お金持ちじゃなかったの!?』
ずっと彼の腕にしがみついてこちらをじっと睨んでいたふわふわボブのいかにも女子なお嬢さんが彼を問い詰め出した。やっぱり男運は改善しない30オーバーの干物女にそんなふうに見せつけなくても、と鼻を鳴らしてそのまま部屋を出て行った。