終着駅のワンナイトは終わらない〜策士なイメチェン元後輩(一見ワンコ)の執着に囚われました〜【一話から】
*
「うわぁ、それはひどい修羅場ですね」
「修羅場というほどでもなかったけど……。それで、行きつけのバーでワインを持ち込んで飲んで、そのままワインもウイスキーも飲んで………それで……そう、知らない男性に話しかけられてからあんまり記憶がなくて……」
浴びるように飲んでいた時の記憶だけがひどく曖昧だ。確かに常にない精神状態でショックを受けていたのかもしれない。
強がっても、5年は長かった。
大学時代のサークルの友人だった彼ーー尾崎大和。気の弱いところがあったが、真面目で気の置けない仲だった。再会して告白され、転勤になっても、頑張れよ、と快く送り出してくれた。それが、いつからか仕事ばっかのくせにと文句ばかりになり、あんなに普通で親切だった彼への罪悪感と彼氏すらいないのは家族への手前も嫌だという惰性から形が歪んでいってしまった。本当はとっくに壊れていたのに。
『一人ですか?』
マスターに三十路女に今更キッツイよぉ、仕事もうまくいかないしぃ、とクダを巻いていたところで、隣からかけられたその言葉は思い出せるのに全く顔が思い出せない。
はは、とベッドの端に腰かけていた玲司が笑ったのがわかった。
少しだけ体を預けたマットレスがぎしり、と軋む。彼が完全にベッドに乗り上げ、横になる雪那のすぐ隣に座ったのだ。体を傾けて雪那の真っ直ぐな黒髪を撫でてくる。
「誘われたんですよ。桐谷さん、綺麗だから」
「え、そんなわけないわ」
どう見てもひどい酔っ払いだった。飲んだ酒瓶を並べて騒いでいた迷惑な酔客。
雪那はパッと見からきつそうな見た目だ。ストレートの黒髪に黒のアイラインを引いた挑発的な二重のアーモンドアイを中心とした、全体としてはっきりした顔立ち。色白頬にはたく紅も薄く唇も控えめなヌードベージュの紅で、女だから、と言われる要素は極力避けていた。決して仕事ではスカートは履かない。お客様以外には媚びた笑みを見せない。
隙がない、気が強い、中身は男、と同僚からは言われている。
綺麗なんて、今やバレンタインにチョコをくれる女性社員たちにしか言われない。
そんな女を誘う男がいるものか。
そう伝えると、くすくすと明るい声が返ってきた。
「きっとその男は自分に自信があったんですよ。なのに逃げられて……ショックだったでしょうね?」
「逃げ……、ああ思い出した。そうだわ。肩を抱かれてそうになってゾワッとしたから走って逃げたんだった」
「ゾワってしたんですか?」
雪那の脳裏に「終電があるから!マスター、帰る!お会計!!」と店中に響く声で叫ぶ自分が蘇る。もう、あのバーには行けないかもしれない。それからまるで酔ってないかのようにヒールでカツカツと駅まで一心不乱に歩いて、それでやって来た電車に飛び乗って、たまたま空いていた席に座ったところで………完全に一切記憶がない。どれだけ唸ってもぶっつり切れた闇しかない。
多分、寝ていたのだ。そしていつからから玲司にもたれかかって寝ていたと。
そうして気がついたら都内行きとは真反対の路線の終着駅で完全グロッキーになり、ホテルでこの状況。
雪那は顔を手で覆ってため息をついた。
「ああ本当、情けない。そもそもコンペにこんなに負け続けるとか……悔しい。本当なんなの、ユースアラウンド社。ことごとく私の担当顧客に営業かけてきて……。でも悔しいのはあのシステム、ちょっとプレゼン聞いてるだけでもよくできてるのよね。うちの会社もああいう顧客要望に手の届くカスタマイズをしてほしいものだわ。営業意見なんてほとんど開発に反映されないんだもの」
「ふふ、嬉しいなあ。あれはね、雪那さんがあったらいいなって語ってたものをいっぱい詰め込んだんです」
「……ん?」
「うわぁ、それはひどい修羅場ですね」
「修羅場というほどでもなかったけど……。それで、行きつけのバーでワインを持ち込んで飲んで、そのままワインもウイスキーも飲んで………それで……そう、知らない男性に話しかけられてからあんまり記憶がなくて……」
浴びるように飲んでいた時の記憶だけがひどく曖昧だ。確かに常にない精神状態でショックを受けていたのかもしれない。
強がっても、5年は長かった。
大学時代のサークルの友人だった彼ーー尾崎大和。気の弱いところがあったが、真面目で気の置けない仲だった。再会して告白され、転勤になっても、頑張れよ、と快く送り出してくれた。それが、いつからか仕事ばっかのくせにと文句ばかりになり、あんなに普通で親切だった彼への罪悪感と彼氏すらいないのは家族への手前も嫌だという惰性から形が歪んでいってしまった。本当はとっくに壊れていたのに。
『一人ですか?』
マスターに三十路女に今更キッツイよぉ、仕事もうまくいかないしぃ、とクダを巻いていたところで、隣からかけられたその言葉は思い出せるのに全く顔が思い出せない。
はは、とベッドの端に腰かけていた玲司が笑ったのがわかった。
少しだけ体を預けたマットレスがぎしり、と軋む。彼が完全にベッドに乗り上げ、横になる雪那のすぐ隣に座ったのだ。体を傾けて雪那の真っ直ぐな黒髪を撫でてくる。
「誘われたんですよ。桐谷さん、綺麗だから」
「え、そんなわけないわ」
どう見てもひどい酔っ払いだった。飲んだ酒瓶を並べて騒いでいた迷惑な酔客。
雪那はパッと見からきつそうな見た目だ。ストレートの黒髪に黒のアイラインを引いた挑発的な二重のアーモンドアイを中心とした、全体としてはっきりした顔立ち。色白頬にはたく紅も薄く唇も控えめなヌードベージュの紅で、女だから、と言われる要素は極力避けていた。決して仕事ではスカートは履かない。お客様以外には媚びた笑みを見せない。
隙がない、気が強い、中身は男、と同僚からは言われている。
綺麗なんて、今やバレンタインにチョコをくれる女性社員たちにしか言われない。
そんな女を誘う男がいるものか。
そう伝えると、くすくすと明るい声が返ってきた。
「きっとその男は自分に自信があったんですよ。なのに逃げられて……ショックだったでしょうね?」
「逃げ……、ああ思い出した。そうだわ。肩を抱かれてそうになってゾワッとしたから走って逃げたんだった」
「ゾワってしたんですか?」
雪那の脳裏に「終電があるから!マスター、帰る!お会計!!」と店中に響く声で叫ぶ自分が蘇る。もう、あのバーには行けないかもしれない。それからまるで酔ってないかのようにヒールでカツカツと駅まで一心不乱に歩いて、それでやって来た電車に飛び乗って、たまたま空いていた席に座ったところで………完全に一切記憶がない。どれだけ唸ってもぶっつり切れた闇しかない。
多分、寝ていたのだ。そしていつからから玲司にもたれかかって寝ていたと。
そうして気がついたら都内行きとは真反対の路線の終着駅で完全グロッキーになり、ホテルでこの状況。
雪那は顔を手で覆ってため息をついた。
「ああ本当、情けない。そもそもコンペにこんなに負け続けるとか……悔しい。本当なんなの、ユースアラウンド社。ことごとく私の担当顧客に営業かけてきて……。でも悔しいのはあのシステム、ちょっとプレゼン聞いてるだけでもよくできてるのよね。うちの会社もああいう顧客要望に手の届くカスタマイズをしてほしいものだわ。営業意見なんてほとんど開発に反映されないんだもの」
「ふふ、嬉しいなあ。あれはね、雪那さんがあったらいいなって語ってたものをいっぱい詰め込んだんです」
「……ん?」