終着駅のワンナイトは終わらない〜策士なイメチェン元後輩(一見ワンコ)の執着に囚われました〜【一話から】

12. 心に落ちたシミ

——雪那さんを甘やかしたいな。

 玲司がそう言い始めて一か月。それはもう怒涛の攻勢であった。心配そうな顔をされて、家に転がり込まれかけ、狭いからと拒否すれば彼の家に連れ込まれた。
 同期の退職はひっそりとなされたが、結局、どこからかあの投書の犯人が亜澄だったと広がった。
 雪那はかなり同情されたが、辞めたらこんなに社内で好き勝手に言われるのだともゾッとした。雪那が辞めていたらもっと面白おかしく言われていたのだろう。
 課長は、かなり気まずそうだ。気を遣われている。あんなに忙しかった雪那がいなくても仕事の日々は回っている。
 以前と比較して格段に仕事量が少なく、モヤモヤを抱えながら定時退社して、家で仕事をしていることが多い玲司にずっと抱え込まれる毎日だ。
 だが、夜中に起きて明け方まで自分の部屋に引きこもっている彼はかなり無理をしていると思う。帰るよと言っても許されないのだけれど。

「俺はすごいショートスリーパーだから全然平気だよ。雪那さんといれる時間のが大事」

 隈をつくって言われても、というのが正直なところだ。
 ただ本当に玲司は雪那といられるのが嬉しいようで、ニコニコと雪那の世話を焼きたがる。さすがに寝てほしいと思うのだけれど、「寝るなんて無駄な時間で雪那さんといる時間減らしたくない」と言い張るのだ。
 玲司が締切が重なった時はこちらが驚くほどのしょんぼりした顔で謝りながら二徹していて、そんなギリギリまで無茶しないでほしいと叱った。響いた感じがなかったが。
 
 ならせめてご飯でも……と思うのだが、雪那は残念ながら、栄養と彩りある料理が得意ではなかった。トラウマでもある。母に使えないと罵られる理由はそこにあるが、昔に頑張ったときに全然美味しくないと突き放したのもそっちだろうと思う。
 そういえば、実家からの煩わしい連絡がなくなっていることにふと気がついた。三回無視するといつも怒って履歴を埋め尽くすほど電話をしてくるのに。
 
 玲司は雪那さんはそんな家政婦みたいなことしなくていいよと言う。ハウスキーパーでも頼んだのか、いつの間にか家はピカピカになっている。
 なんとなく仕事もプライベートも手持ち無沙汰な自分が情けない。でも、手を出すと余計に玲司に余分な手配をさせてしまうので雪那は、何もせず、大人しく資格試験の勉強をすることにした。
 ほぼ同棲状態になってから、玲司は転職を誘って来なくなった。ハニートラップではなく、本当に転職は雪那と一緒にいるだけの口実だったようだ。
 ただそれはそれでモヤモヤしながら、雪那は今日も彼のぬいぐるみになっていた。

 
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