終着駅のワンナイトは終わらない〜策士なイメチェン元後輩(一見ワンコ)の執着に囚われました〜【一話から】
 突然、雪那と名前を呼ばれたこともその文脈も全部が引っかかった。
 のそりと顔を上げると、今にも触れそうなほどの近くに玲司の顔があった。雪那は左目の下にある黒子がはっきりと動いたのがわかるほど目を見開き切れ長の瞳を丸くする。
 そんな雪那の頬に、次の瞬間、ふにゅと柔らかな感触があった。
 
「え……っ」
「ねえ、転職しません?ユースアラウンドは雪那さんに()()()()()()ために作ったんですよ。その雪那さんが製品を売り込んでくれたら最高だなあ」
「は……?」

 ウチ、営業はあんまり強くないから雪那さん顧客狙いで一点集中なんですよね、と彼は笑う。そのまま手櫛で一気に全て前髪を上げたその顔をじっと見て、思考が止まった。

 どこかで、見たことがある気がして目を細める。
 これに銀縁メガネをかけたら……?

「あっ、西岡通商ですれ違ったユースアラウンドの担当…?!いやていうか、バーで声かけてきた人っ?」
「あはは、やっとわかってもらえました?ちなみに担当じゃなくて一応、社長です。CEOって言い方の方が今時?」
「はい?」

 情報が過多である。
 気分は悪くなくなったが、まだまだポンコツなままの脳のCPUが処理速度を爆下げしている。無意味に唇を動かし、結局声にならなかった雪那を見て、また玲司はにっこりと笑う。
 
「雪那さん、ベロベロに酔ってるのにほんとガード固いんだもん。ほーんと、高嶺の花だよね。ゾワッとしたってひどいなあ。でも最後の最後は詰めが甘いよね」
「えっ、橋谷くん?!……ちょっ」

 丁寧だった言葉遣いが突如砕けたものになったことも混乱した。体の前に手が回り仰向けにさせられると、そのまま両手を一掴みにベッドに押し付けられる。
 体の上に自分のものじゃない圧を感じた。
 目を見開いて視線を上げれば、爽やかイケメンになった、そして、にっくき商売敵となった、だが、介抱してくれた元後輩の顔が、明らかに男の顔になっている。

「え……、なに……っ?」
「わかりますよね?男女がベッドの上で二人きり。早めに同意がもらえると嬉しいかなと」
「どういう……んっ?」

 ちゅっ。
 今度は唇に柔らかな感覚が一瞬だけ触れた。
 全ての時間が止まり、少ししてから彼の親指が頬をゆっくりとなぞっている感覚に気がつく。その瞬間、ぼっと頬に熱がこもった。

「ヒェ……えっ?」

 視線の先で、やっぱりあの嬉しそうな印象的な笑顔の玲司がいた。
 
「好きです、雪那さん」
「……え?す、好き……?は?好き?なんで??」
「そのあたりは一晩かけてじっくり、ゆっくりわかりってもらいます。何でも質問してください。この時を5年も待ったんです。憎たらしい彼氏ともやっと別れてくれたことだし、本日、何が何でも雪那さんをオトす所存です」
「……え、いえ、所存と言われても……?」
 
 唖然とした雪那において、とにかくなぜ店に置いてきたはずの男が、同じ電車で終点まで隣に座っていたのかが一番聞きたいことだった。
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