喪失騎士エルディーテの冥界追想録 〜 孤独な騎士の過去を辿る、運命を覆す相互救済ロマンス~
王女サフィアを慕うのはディアンも同じ。
いや、独占欲を孕む愛という視点で見れば、その執心はエルディーテよりも強いものがあっただろう。
――――「人の魂は冥界へ行くだろう?そこで三叉路に到達すれば判決は直ぐに下る。レーテの水を飲まされ生まれ変わるか、煉獄タルタロスに連れていかれる。だが、魂は一定期間は滞留するらしい」
「……魂が滞留する?」
「あぁ。直ぐに裁かれるわけじゃないんだ。だからその間にケルベロスと交渉して、条件を満たせば冥王ハデスの許可のもと死者を地上に連れ帰り復活させることが出来る」
王女サフィアの国葬を終えた日の夜に、弟のディアンは重々しくエルディーテに打ち明けた。
その話を聞いた時、はじめは困惑した。
一体何を言っているのだろうと俄かに信じられず、しかし本当ならばどんなに良いかと耳を傾けた。
弟のディアン・グラウスは今年で二十三と、貴族であれば結婚していてもおかしくない年齢だが未婚の独身。
父の公爵家の仕事を手伝っており、将来はグラウス家を継ぐ予定だ。
姉弟中はむつまじく、エルディーテにとって可愛い弟である。
家訓である実力主義に倣い、公爵家の嫡男として非常に優秀で社交的に成長し、穏やかな物腰で経済の流れを読むのが上手い慧眼の紳士だ。
瞳の色は母に似て、品のある黒曜石のような重厚な輝きを放ち、柔らかな癖のある金髪はエルディーテと瓜二つ。
それらを取れば、見目麗しい優秀な公爵家の令息なのだが、しかしディアンは唯一欠点があった。
女遊びが激しいのだ。
未婚の令嬢や未亡人など数多の女性に粉をかけては、蜜に群がる獲物を捕食するように一夜を過ごす。
しかしそれは、サフィアへの当てつけだったのだろう。
幼少期からサフィアを想うディアンを知っているエルディーテとしては、その行為は苦悩から生まれる当てつけとしか思えなかった。
どんなに愛しても手に入らない。
それが一方的なものならば諦めもつくのだろうが、エルディーテの目から見ても二人の間には明確な何かがあった。
故に手に入れられないと分かり、代わりで穴を埋める。
そんな弟の危うい行動にしばしば苦言を申し入れたが、今までたおやかにあしらわれてきた。
愚かな弟は、サフィアの死に酷く取り乱した。
そして何かに気付いたように部屋に籠ると、食事も摂らず、誰も寄り付かせなくなった。
ディアンの部屋には一晩中灯りが灯っていて何をしているのかは分からなかった。
まさかこのまま籠り続けるのだろうかと一抹の不安がよぎったが、しかしその心配は杞憂に終わる。
襲撃事件から間もなくして執り行われた国葬に普段となんら変わらぬ出で立ちで参列していたのだ。
帝国では燃やした遺骨を川に流す風習がある。
ディアンはそれを固い眼差しで見つめサフィアを見送った。そしてエルディーテが職務から戻ってきた折に「話したいことがある」と言って、その日の晩にあの話をしたのだ。
いや、独占欲を孕む愛という視点で見れば、その執心はエルディーテよりも強いものがあっただろう。
――――「人の魂は冥界へ行くだろう?そこで三叉路に到達すれば判決は直ぐに下る。レーテの水を飲まされ生まれ変わるか、煉獄タルタロスに連れていかれる。だが、魂は一定期間は滞留するらしい」
「……魂が滞留する?」
「あぁ。直ぐに裁かれるわけじゃないんだ。だからその間にケルベロスと交渉して、条件を満たせば冥王ハデスの許可のもと死者を地上に連れ帰り復活させることが出来る」
王女サフィアの国葬を終えた日の夜に、弟のディアンは重々しくエルディーテに打ち明けた。
その話を聞いた時、はじめは困惑した。
一体何を言っているのだろうと俄かに信じられず、しかし本当ならばどんなに良いかと耳を傾けた。
弟のディアン・グラウスは今年で二十三と、貴族であれば結婚していてもおかしくない年齢だが未婚の独身。
父の公爵家の仕事を手伝っており、将来はグラウス家を継ぐ予定だ。
姉弟中はむつまじく、エルディーテにとって可愛い弟である。
家訓である実力主義に倣い、公爵家の嫡男として非常に優秀で社交的に成長し、穏やかな物腰で経済の流れを読むのが上手い慧眼の紳士だ。
瞳の色は母に似て、品のある黒曜石のような重厚な輝きを放ち、柔らかな癖のある金髪はエルディーテと瓜二つ。
それらを取れば、見目麗しい優秀な公爵家の令息なのだが、しかしディアンは唯一欠点があった。
女遊びが激しいのだ。
未婚の令嬢や未亡人など数多の女性に粉をかけては、蜜に群がる獲物を捕食するように一夜を過ごす。
しかしそれは、サフィアへの当てつけだったのだろう。
幼少期からサフィアを想うディアンを知っているエルディーテとしては、その行為は苦悩から生まれる当てつけとしか思えなかった。
どんなに愛しても手に入らない。
それが一方的なものならば諦めもつくのだろうが、エルディーテの目から見ても二人の間には明確な何かがあった。
故に手に入れられないと分かり、代わりで穴を埋める。
そんな弟の危うい行動にしばしば苦言を申し入れたが、今までたおやかにあしらわれてきた。
愚かな弟は、サフィアの死に酷く取り乱した。
そして何かに気付いたように部屋に籠ると、食事も摂らず、誰も寄り付かせなくなった。
ディアンの部屋には一晩中灯りが灯っていて何をしているのかは分からなかった。
まさかこのまま籠り続けるのだろうかと一抹の不安がよぎったが、しかしその心配は杞憂に終わる。
襲撃事件から間もなくして執り行われた国葬に普段となんら変わらぬ出で立ちで参列していたのだ。
帝国では燃やした遺骨を川に流す風習がある。
ディアンはそれを固い眼差しで見つめサフィアを見送った。そしてエルディーテが職務から戻ってきた折に「話したいことがある」と言って、その日の晩にあの話をしたのだ。