喪失騎士エルディーテの冥界追想録 〜 孤独な騎士の過去を辿る、運命を覆す相互救済ロマンス~
ぐらりと身体が傾いて、魂が抜けるのではないかと錯覚するような落下の感覚に肌が栗立つ。

「なっ……!!?」

真っ逆さまに落ちて行く。

「エルディーテ、何があった」

扉は開きっぱなしの扉から零れる青白い淡い光と共に、遠くの方でケルベロスの声が聞こえた。

しかし光はどんどん遠くなってゆく。

続く急速な落下の気持ち悪さに耐えきれずエルディーテは苦し気に瞼を閉じた。


ーーーーそして、気付くとエルディーテは同じ邸に居た。

落下したのが嘘だったように衝撃もなく、絨毯の感触を掌に感じながら床に張り付いていた。

ぐらぐらと酔いの回った頭が重く眼を細めて見渡すと、初めに見た景色と少しだけ異なっていることに気付く。

扉の数が違う。
それに、歪な形だったものが一般的に目にする形で存在していた。

困惑するエルディーテは唇を僅かに震わせ吐息を零す。

すると突如、騒がしい足音と共に、直ぐ傍を少年が走り抜けた。
身なりの整った緋色の髪の少年だった。

「兄さん、待ってよ!」

その彼を呼び止めるように、違う方から声があどけない響く。

聞こえてきたのは玄関の広間に繋がる緩やかな階段からで、口ぶりからして少年の弟だと分かる。

エルディーテには目もくれず、階段に手をかけながら兄を追うため降りている。

「急げよオルディス!」

「分かってるよ!」

すると今度は、二人の兄弟を窘めるような高い声が響いた。

「二人とも、焦っては駄目よ。転んでしまうわ」

女性がひとり赤子を抱いて階段の上から二人に声を掛けたのだ。

この人物もまた、エルディーテを認識していない。

「だって生まれるんだよ!?馬の出産は早いって父様が言ったし……よしオルディス、行くぞ!」

「うん!」

兄の方が降りてきた弟を見て玄関の扉を開く。

――誰にも私が見えてない?一体ここはどこなんだ。まさかこれが手掛かりだと?

吐き気を感じながら立ち上がり邸を見渡したあと、エルディーテは開かれたままの扉を見た。

なぜか無性に焦燥感に駆られ、その足は少年たちを追う。

冥界の入口とは違う、明らかに自然の光を感じる。
そこへ行こうと歩み、エルディーテは扉を跨ぐ。

すると再び足元が抜けた。

また落ちて行く。
先ほどと同じように落下してゆき、そして次に見えたのは見慣れた景色だった。



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