続・各駅停車のラブソング~只今絶賛、片思い中。~

第15駅:時刻表(ダイヤ)のないお茶会

「お嬢様、本日のハーブティーでございます。少しお疲れのようでしたので、カモミールをベースにいたしました」
洗練された美しい動作で、白磁のカップに琥珀色の液体を注ぐのは、私の専属執事である景(けい)。
端正な顔立ち、非の打ち所がない所作、そして常に私の一歩後ろに控える影のような存在。
私は、この世界で一番近くにいる彼に、決して許されない片思いをしている。
「ありがとう、景。……ねえ、誰もいない時は『お嬢様』じゃなくて、名前で呼んでって言ってるのに」
「滅相もございません。私は結衣様にお仕えする執事ですから。その一線を越えることは許されません」
景は崩さない。完璧な微笑みの仮面を被ったまま、冷たく突き放す。
家柄、立場、身分。
私たちの間には、どんな特急列車でも飛び越えられない、分厚い壁のレールが横たわっている。
ある雨の日の夕暮れ。落雷で屋敷が停電し、激しい雷鳴が響いた。
思わず悲鳴を上げて蹲った私の身体を、強い力で抱きしめる腕があった。
「結衣……っ!」
耳元で、初めて聞いた彼の焦燥した声。
いつも冷静な景が、私の名前を呼んで、壊れ物を扱うように愛おしそうに私を抱きしめている。
その胸の鼓動は、驚くほど速くて、うるさかった。
「景……?」
「……申し訳ありません。お労しさに、つい」
電気が復旧すると同時に、彼はパッと手を離し、またいつもの「完璧な執事」の顔に戻ってしまう。
「お嬢様、お怪我はございませんか。私はどこへも行きません。ずっと、お傍におりますから」
ただの忠誠心なのか、それとも彼も仮面の裏で私と同じ気持ちを隠しているのか。
主従という名の檻の中で、私のせつない恋は、今日も行き先のない溜息を漏らす。
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