母国を追われた草いじり令嬢は、敵国で『宮廷植物医』として新生活を満喫しています~元婚約者様と義妹、お元気ですか? 貴重な植物が全て枯れ、さらに私が渡した大事な園芸書を燃やした?じゃあ、もう無理ですね~

第11話:宮廷植物医、帝国一の植物学者と会う

 美しい紫色の長髪は頭の後ろで無造作にまとめ、髪よりやや濃い紫の瞳は切れ長で気品がある。

(美人が上品に歳をとったような女性ね……。淑女という表現がぴったり)

 背が高く整った姿勢からは頼りがいを、落ち着いた佇まいからは経験値の密度を感じた。
 緊張で少しばかり身体が硬くなるベルナデッタにラルフが紹介する。

「彼女はジュリエット。名実ともに、この国で一番の植物学者だ。植物に作用する魔法はないため、この国においての分析研究は彼女が担当している」
「よろしく、あんたの話はラルフからよく聞いているよ。宮廷植物医を拝命したんだろうあの王国から来るなんて大変だったね」
「初めまして、ベルナデッタ・フォーセットと申します。諸事情によりアトラ王国から参りました」

 ジュリエットと握手を交わす。
 長年植物に触れ、育てたことがよくわかる分厚い手だった。

(本当に数え切れないほどの植物と触れ合ってきたんだわ。そして、この人も植物が大好きだってよくわかる)

 ベルナデッタは志を同じにする者と出会え、嬉しくて誇らしかった。
 そんな彼女にジュリエットは鋭い瞳を向ける。

「あんた、植物に関する腕は一流だね。リーベルの樹を復活させたと聞いたときは驚いたけど、この手の持ち主なら納得さ。自分の魔力を注いで植物を活性化する力なんて、本当に夢のようだよ」
「お褒めいただきありがとうございます。しかし、私なんかまだまだです。勉強しなきゃいけないことは山ほどありますし、今でも失敗だってたくさんします」
「無駄な謙遜はしちゃいけないよ、ベルナ。あんたがどういう人間かはこの手が証明しているのさ」
「手、ですか?」

 ジュリエットはベルナデッタの手をそっと持ち上げた。
 胼胝や肉刺、擦り傷まみれの肌が目に映る。

「この手は、自分より植物をずっと優先してきた手だ。十年……いや、十二、三年といったところかね」
「あの……わかるんですか?」
「それくらいわかるよ。何年植物学者をやっていると思っているんだい」

 粗雑な物言いにも聞こえるが、ベルナデッタはただ嬉しかった。

(この国にも……私を認めてくれる人がたくさんいる)

 敵国ということで感じた不安も、今はもうない。
 新しい居場所を実感して穏やかな気持ちになる中、ラルフがジュリエットに硬い表情で告げた。

「ジュリエット、あまり大きな声でけたたましく話さないでくれ。ベルナデッタが怖がっているだろう」
「相変わらず、あんたは口うるさいね。親父にそっくりだ」

 二人は軽く言い合いを始め、マティアスは肩を竦める。
 よくある光景なのだと想像ついた。
 ラルフがやや劣勢になってきたところで、ベルナデッタは気になった疑問を尋ねる。

「お二人はご友人なんですか?」
「ラルフの父親――今の皇帝とあたしは古い友人なのさ。だから、ラルフは子どもの頃からよく知っているよ。昔から子どものくせに気難しい男だったね」

 反応に困るベルナデッタが苦笑いで応えるうちに、話は自然と植物事情に戻った。

「先ほど殿下とマティアス様から、この国の植物を襲った奇病についてお話を聞きました。飛び地様の感染を考えると、病気より毒の可能性が高い気がするのですが……」
「そうだね、あたしも最初はそう思っていたよ。ただ、ラルフから聞いたとは思うけど毒が検出されないのさ。枯死した植物だけじゃない、病変が発生した土壌からもね。だから、今は病気を疑っていろいろと調べているところさ」
「土壌からもですか……。すぐ分解される毒という可能性はどうでしょう」

 何かしらの原因により毒が撒かれた場合、植物だけでなく土壌にも残留する。
 細かく調べても出てこないのであれば……というベルナデッタの推測に対し、ジュリエットは残念そうな表情で首を横に振った。

「あいにくと、その可能性も低いね。勘とかの曖昧な話じゃないよ。病原が発生したら、すぐあたしのところに連絡が来るようラルフが手配してくれていたんだ。今まで六回、病原発生の直後に現地に行って調査したことがある。だけど、それでも毒は一回も検出されなかったんだ」

 要するに、分解速度の速い毒ではないという話だ。
 ベルナデッタは詳しく聞きながら、やはり自分でも調べてみたいと考える。

「枯死した植物か土壌のサンプルはありますか?」
「どっちもあたしの研究室にあるさ。でも、何も出ないと思うよ。自分でいうのもなんだけど、あたしの開発した検出方法の精度はどれもなかなか高いからね」
「いえ、何か反応があるかもしれないのです。帝国式ではなく……王国式の検出方法なら」

 ベルナデッタの言葉に、室内にいるみなの視線が集まった。
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